研究雑記

 

1. 建築外壁の劣化危険度評価の必要性 (2011.10) 

2. 鉄筋コンクリート構造物の高耐久化と鉄筋継手 (2009.10)

3. コンバージョンにおける建築素材の時間空間的調和(2008.4

4. デザインレビュー (2006.9)

5. エイジング建築材料 (2004.10)

6. 日本建築仕上学会賞(2003.5)

7. コンクリートの破壊に関するI氏からの質問(2002.11.8)

8. 建築材料分野での研究テーマの選び方(2002.6)

9. 日本建築学会賞(2001.9)

10. コンクリートの歴史考(2000.11)

 

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建築外壁の劣化危険度評価の必要性

日本建築仕上学会誌 FINEX 20119/10月号より一部抜粋



 

この度の東日本大震災においても仕上材料の落下・剥落が問題となった。内装材料の落下だけではなく,外壁材料の剥落についても今後一層の安全性向上が求められるであろう。近年,建築技術の高度化,材料の高性能化,構造の自由度の増大により,建物の外壁面は形状・形態が複雑になる傾向がある。このことは,たとえば雨,風などの劣化要因の建物への作用が複雑となり,外壁の劣化,外壁材料の剥落,汚れによる美観低下等を生じやすくなる。

 

複雑な形状,斬新な建物では,耐震性能の評価が重要となる場合があるが,この場合は設計時の耐震診断により安全性の評価が可能である。同様に,設計図の情報から外壁面の劣化危険度の判定方法があると便利である。判定結果に基づき,劣化危険度の高い部位の剥落防止補強,ディテールの工夫などの対応が可能であり,また,既存建築では,劣化診断する仕上材料・部位の選定,今後の劣化の進行予測,補修補強部位の決定などに活用できる。

 

以下に具体的な方法を述べてみる。まず外壁の形状を設計図から読み取り,壁面要素に分割し,雨,風,光等の劣化因子の作用度から各壁面要素の危険度を定量化し、壁面の形状危険度を算出する(一次評価)。この場合,まず平面図において横方向に直線状の壁面の向きが変わる点ごとに壁面を抽出し,その壁面での断面図を書く。断面図の縦方向に壁面の向きが変わる点ごとに壁面を抽出し評価対象の壁面要素とする。

 

壁面要素どうしの上下左右の関係から危険度を評価する。たとえば,傾斜壁面の下に位置する壁面要素は雨水が流れ易いので危険度が高い,ひさしの下に接する壁面は雨水があたり難いので危険度が低いなどである。

 

一次評価での形状危険度は単に建物の形状からの評価であるが,二次評価においては,壁面要素間のディテール、仕上材料の耐久性等から,より詳細な劣化危険度を評価する。例えば,雨水が流れ易い壁面上部に水切り等がある場合は危険度が低くなる。すなわち,一次評価の形状危険度が高い場合でも必ずしもその建物の外壁面の劣化危険度が高いわけではない。ディテール、仕上材料の性能を向上させることにより壁面劣化危険度を低くすることができる。以上の結果から,壁面要素の劣化危険度を積算し,壁面全体の劣化危険度を評価する。(参考:劣化危険度の評価図

 

この方法によると,建物形状が単調なほど形状劣化度は小さくなり劣化に対して有利となることが想定できる。しかしながら,形状が単調なものが建築として必ずしも優れているとは限らず,複雑な形状の優れた建築は多い。形状が複雑で形状劣化度が高くなった場合は二次評価よる評価値を低減させることで全体の劣化危険度を下げることが可能である。また既存建物の改修の場合は,どれだけ危険度を低減したかが重要であり,改修結果の評価にも使える。

 

このような評価方法ができると便利と思っているが,ご意見,評価方法に有益となるデータなど頂けると幸いである。

 

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鉄筋コンクリート構造物の高耐久化と鉄筋継手

鉄筋継手(2009.10)巻頭言/社団法人日本鉄筋継手協会より一部抜粋


 

温室効果ガスの削減目標達成のためには,200年住宅に代表されるような建物の長寿命化が必要と思われます。そのためには劣化が生じにくい建物および及び構造物を作ることです。鉄筋継手が重要な要素技術となる鉄筋コンクリート(RC)構造物の劣化で,まず思い浮かぶのがコンクリートの中性化です。中性化が起きると鉄筋が錆びるので,鉄筋まで中性化が進むとRC構造物は寿命が来た,というのが一般的な考え方となっています。しかしながら,中性化が進んだあと鉄筋はどの程度錆びていくのか,また,そのことによってRC構造物の性能がどの程度低下していくのか,中性化が鉄筋まで進むと本当に構造体はだめなのか,など構造的な性能まではあまり明らかにはされていません。

 

その理由として,引張力を受け持つ鉄筋においては,「錆」という明らかな有効断面の「減少」は,構造機能の低下にあまりにも明確であることと,一度錆びた鉄筋の補強は難しいこともありなどが考えられ,鉄筋が錆びだした時点で,とりあえず機能維持は難しいと判断するのは妥当な判断と言えます。また,コンクリートは,セメント、骨材、混和材などの材料,環境条件,施工性,養生条件によって、品質が変わり,さらに,水和,炭酸化などの化学変化,塩分の浸透等の物理作用など耐久性に関し解明すべき研究テーマが多くあります。このような理由からか,RC構造物の耐久性に関しては,古くからコンクリート材料分野の研究が多く,構造性能までは手がまわらなかったのではと思います。

 

最近では、鉄筋コンクリートの耐久性に関し構造性能への影響も含めた総合的な研究が増えつつあります。先に述べたように、コンクリートの中性化あるいは塩害等の劣化要因により、部材の性能がどうなるかを明らかにすることで、構造体の耐用年数が正確に評価でき、ストックの有効な活用結びつきます。

 

そのために明らかにしなければならない特性は、時間tと劣化因子の作用量Fの関係(レベル1)、劣化因子の作用量Fと材料の劣化度Dとの関係(レベル2)、材料の劣化度Dと構造性能の低下度Pとの関係(レベル3)、の3つに整理できます。

 

たとえば、中性化の進行の予測は、中性化(炭酸ガスの作用)という劣化因子の作用量の時間変化の推定ですので,レベル1となります。さらに、中性化の進行と鉄筋の錆による断面減少の把握はレベル2、断面減少と部材の耐力との関係はレベル3となり,それぞれを定量的に明らかにすることで 鉄筋コンクリート複合体の耐久性能評価図Pt(レベル4)が書けます(下図参照)。

 

 

さて,本題のRC構造物の耐久性と鉄筋継手との関係ですが,先ほど述べたレベル3,すなわち鉄筋の錆と構造性能との関係を考えますと,重ね継手はやや不利と考えられます。鉄筋の錆によるコンクリートとの付着力の低下が,そのまま鉄筋間の応力伝達の低下となるからです。さらに錆が進行し,かぶりコンクリートにひび割れが生じる,あるいは,かぶりコンクリートの剥落などが起これば定着力はほとんど期待できないことになります。その点,鉄筋どうしを物理的に締結している,ガス圧接継手,溶接継手,機械式継手などは,重ね継手よりは有利と言えます。

 

とはいえ,これらの継手の耐久性に関しては未知の部分も多く今後の研究が必要かと思います。たとえば,ガス圧接継手,溶接継手に関しては,継手部が長期的な錆に対して問題はないか,機械式継手につては,カプラー,スリーブ等の防錆性,注入材料の耐久性等です。さらに,これらの継手に対し耐久性上問題が無いという評価を得るためには,適切な仕様書に基づき,適切な施工が,適切な品質管理の下で行われている,ということが大前提であることは言うまでもありません。

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コンバージョンにおける建築素材の時間空間的調和

世界のコンバージョン建築(2008.4)/鹿島出版会より一部抜粋

 

概 要

 

一般の建築物とコンバージョン建築物との違いは、前者はその単体が価値の主体となるのに対し、後者は、建築時期の異なる外装,内装,内部空間,構造体など様々なエレメントの組み合わせによる総体の空間的調和が大きな価値を生じる場合がある点と考えられる。さらに,コンバージョンによってもたらされる調和は、空間だけに限らず時間経過の異なる要素が影響し合い,新たな価値を生じる場合もあり複雑である。

 

すなわち,コンバージョン建築においては,多様な建築要素を,空間的だけでなく,時間的にも調和させることが重要と考えられる。良い調和のコンバージョン建築は,建物の質を高めるだけでなく、それを利用する地域の生活・文化の向上にも大きく影響を及ぼす。本論では,コンバージョン建築において,特に内外装仕上げ,構造材などの素材の使われ方と時間的・空間的調和との関係について考察している。(ここでいう素材とは、視覚的評価の対象となる部材単位の大さも含む)

 

コンバージョン建築での素材の調和

 

 広辞苑によると、調和とは,「うまくつり合い全体がととのっていること」,「いくつかのものが矛盾なく互いに程よく和合すること」,とある。たとえば色彩調和,図形調和などの一般的な調和は、ある限られた対象数および限られた観察時間での感覚的体験が基本となる。

 

しかしながら、コンバージョン建築の場合には、時間軸上の価値の変化に対する調和が重要である。新たな建築要素を挿入することで、それまでの建物が持つ価値をうまく継承したり、逆に全く新たな価値を生じるなど,常に残されている建物部分の特性が構成則として作用する点が特徴的である。すなわち,コンバージョン建築の調和には,以下の2つの概念が存在すると考えられる。

 

空間的調和(一過性、景観的特性)

時間的調和(時間変化、継続的特性)

 

また、素材の調和(Harmony)の影響要因には,素材の多様性(Diversity)と,素材の占める空間密度(Spatial density)が大きく影響していると考えられる(下図)。

 







 

たとえば,建築物の内装仕上げの一部のみを,旧来と調和する単純な色彩、テクスチャで統一し更新した場合を考えると,変化した要素の多様性は小さく,また,その占める密度も小さい。このような場合は一般的に時間・空間の統一性,連続性が強く,予定調和を生み出しやすい。

 

代表事例としては,The Rocks Square(下図)の内装に見られるように,古材の梁の外観,レンガの内装は,当時とほとんど変えず,室内の機能のみを用途変更しているケースがあてはまる。この場合は多様性の小さい調和と考えられる。

 

 

 

しかしながら、それだけが調和とは限らず、たとえば、古色蒼然とした天然石材と複数の新素材の組み合わせのように連続性が無く、かつ多様性が大きい素材群を組み合わせることによっても斬新な調和が生み出される点がコンバージョンの面白さと考えられる。新築においても異種素材を組み合わせる手法はあるが、コンバージョンの場合は、素材間に時間的な多様性がある点が大きく異なる。

 

代表事例としては,低層部は組石造のまま,上階部を近代的なガラスと金属パネルのファサードを多用した鉄骨造に大胆に変容させたPortico(下図)がある。

 

 

ファサードに用いられたガラスと亜鉛メッキ鋼板からなるパネルは、低層の石材のテクスチャーとよい対比関係にあり、色彩もベージュの石材にあう無彩色および茶系色が用いられ、新旧の調和をもたらすことに成功している。この場合は時間・空間的に多様性の大きい素材同士の調和と考えられる。

 

<以下略,「世界のコンバージョン建築」をぜひご覧下さい>

 

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デザインレビュー、建築材料・エイジングの視点

建築雑誌20069月号より一部抜粋

 

(主に2005年に新建築等の雑誌に掲載された建築作品について、エイジング(良く年をとる)の観点から評論したものです)

 

形態・ディテール

 

今治市火葬場」は、数寄屋建築のような大きな庇の出が特徴である。このような上部の水平な突き出しは、デザイン上の効果だけではなく、雨風から壁面を守り、美観維持、耐久性の向上にも寄与する。

 

同様な例には、「平山郁夫シルクロード美術館」、「野々市町役場新庁舎」などがある。前者は、大きな屋根の出がデザインされており、外観上の特徴だけではなく、ガラス壁面の美観維持に貢献している。後者も、大面積のガラス全体を、大きなフラットな屋根で覆い、耐久面でも効果的なデザインとなっている。また、外装には能登ヒバのルーバーや、サンドストーン仕上げなど、地域性の高い素材が上手く使われている。

 

これらの建物に共通するのは、外装材にガラスを多用している点である。ガラス材料は、エイジングによる時間変化を期待するよりも、常に表面をきれいな状態に保つことで価値を見出せる素材であり、そのために、これらの建築は上部の形状・ディテールをうまくデザインした例といえる。

 

F Gallery」のファサードは、現代的なデザインではあるものの、歴史的街並みに配慮し、壁面線や勾配屋根が既存の建物と連続するように上手く造られている。勾配屋根は、建物を保護する庇の役目も持つ。建物の耐久性を維持するとともに、町並全体の時間変化にも調和するよい例であり、このような景観調和のアイデアは数多く出てほしい。

 

素材の好ましい変化

 

分とく山」の外壁は、穴あき押し出しセメント板断面片を積層させたものである。通常は下地でしか用いられないセメント板の、外装への斬新な使い方には感心させられる。あえて厳しい自然に曝すことで、しばらくは変色などが気になるかもしれないが、セメント材料の力強い新たな時間的価値が生まれる予感があり、このような試みは様々な素材に発展できよう。

 

それとは対照的に、「LVMH大阪」では、時間変化の価値が潜在的にある天然石を、合わせガラスに薄く挟み、あえて自然から隔離して用いている点がおもしろく、新たな方向性を感じる。

 

島根県芸術文化センター」は、石州瓦を屋根だけでなく外壁に全面的に使用している。地元の土から生まれた素材なので景観的になじみやすく、人々にも愛着を与え続ける。地域社会との関わりの深いエイジング建築の例といえる。

 

ストーン・ハウス」は、一階部分を地場産の砕石で覆い、自然になじませたユニークな住宅である。石塊という半永久的な天然素材を使い、時間軸上での建物の永続性を感じることができる。

 

八街の家」は、その外壁の黒い色合いの存在感が強烈である。均一な色合いよりも、所々、木目模様が見える点がかえって気にならない。これ以上明度が低下することはなく、むしろ時間とともに「木」本来のテクスチュアが徐々に現れることで、通常の素材の時間変化を逆手に取ったような面白いエイジング効果が期待できよう。

 

壁面緑化の建築は多く見られるが、「バイオラング」は、約20のメーカーの壁面緑化技術を集めた、長さ150m高さ15mの巨大な緑化壁面であり、その迫力には圧倒される。壁面緑化は、自然との共存を図る最も効果的な手法であるとともに、季節による変化、植物の成長による変化など、壁面のさまざまな時間変化が楽しめる。ある意味でエイジングのコンセプトに最も近いともいえる。このようなバイオ的な変化を生じる人工的な外壁素材の開発が今後望まれる。

 

近年は、ダブルスキン、二重の庇などの複層的な外装が多い。美観維持あるいは耐久性の確保などの点では良い傾向であるが、表皮材料のディテール、納まりについての技術蓄積が課題である。一方で素材をあえて自然に曝すことで、変哲のない壁面が、時間経過の新たな価値を生じる、というアクティブなエイジング建築が多く現れることも期待したい。

 

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エイジング建築材料

建築雑誌200410月号より一部抜粋

 

エイジングとは

 

 建築デザインにおいては、新築時の価値だけではなく、時間経過に伴う価値の向上にも考慮することが重要であろう。建築大辞典第2版(彰国社)によると、エイジングには,「年月の経過に伴い建物の景観的な質が向上する働き」という意味がある。理想的なエイジングとは、新築時には新しさの価値があり、時間の経過とともに、新築時とは異なる新たな価値が生じることである。メンテナンスをあまり必要とせず,美観が維持でき,むしろ美的価値が向上するエイジング建築は、地球環境保護の面からも今後重要となる。


 

エイジング効果を得るための5条件

 

1.  建物を長期間維持するためには耐久性がない材料、汚れやすい材料などは不適切である。

2.  外壁が均一に変化する分には変色等は気にならない。そのためには建物形態・ディテールが重要である。

3.  様々な素材・色彩等を組合わせ視覚的情報量を増す。

4.  素材の好ましい変化を見いだしその変化を上手く引き出す。

5.  デザインが優れていれば多少の変色・汚れなどは気にならない。

 

 

ロンシャンの礼拝堂(1955年)(下図)
エイジング建築の5条件,デザインがよい,汚れにくい(外壁),ディテールがよい(雨がに伝わらない),様々な素材の組み合わせ(屋根と壁),素材の好ましい変化(屋根のコンクリートの一様変化)すべてを満たしている。

 

 

 

首都大学東京・9号館(1991年)(下図)
外壁材料を,耐久性があり,目地,テクスチャを有する,視覚情報量の多いタイル仕上げとし,かつ,ひさしを付けたため,約15年経過してもほとんど汚れない。理想的なエイジング建築の一つ。

 

 

 

首都大学東京・光の塔(1991年)(下図)
9号館と同じタイル仕上げであるが,上部金物からの雨が直接流れるため,いかに汚れにくいタイルであっても筋状に汚れてしまう。7年ほど前に一度洗浄したがすぐ汚れてしまう。右の庇の壁面はきれいである。金物の納まりがよければ均一に汚れて味が出るかもしれない。

 

 

 

大学セミナーハウス・本館(1965年)(下図) コンクリート表面には雨水が当たらないため,コンクリート素材の約40年の自然の変化を見ることができる。部分的に劣化が見られるがその形態の斬新さからあまり気にならない。

 

説明: Macintosh HD:Users:kitsutakayoshinori:Desktop:www:fig:SeminorHouse.jpg

 

 

新しさに価値の求められがちな人工素材であっても,建築での使われ方によっては時間変化による新たな価値が生じる可能性がある。そのためには,素材の好ましい変化を積極的に見いだすとともに、ディテール,メンテナンス手法などをさらに洗練しなければならない。現代建築を後生に美しく残すためには,エイジング建築の考え方を積極的に取り入れる必要がある。

 

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2003年度日本建築仕上学会賞を受賞して

日本建築仕上学会誌 FINEX 20037/8月号 受賞記事より

 

建築外壁仕上材料の汚れ防止とエイジングに関する研究

橘高義典 東京都立大学教授


 

このたび,2003年度日本建築仕上学会賞(論文賞)を頂き,身に余る光栄と深く感謝しています。建築物の外壁面は、年月とともに様々原因で汚れが発生し、建物の美観を大きく損ねています。従って、建築外壁仕上材料の汚れ防止は重要な検討課題あります。

 

一方で、時間による外観変化により、初期の「きれい」な状態とは異なった観点での「美しさ」が現れる場合もあります。古建築に見られる、古風美、わびさび、深淵な美などはその一例です。このような時間変化に伴う外観の新たな価値を「エイジング」と呼びますが、その特性の解明は、建物の耐用年数および付加価値を向上させる意味でも重要となっています。

 

本研究は、私が卒業研究以来、約25年間取り組んできた成果をまとめたものであり、汚れにくい外壁仕上材料の特性、汚れが発生しにくい建物条件などを明らかにするとともに、経年で好ましくなるような外壁材料のエイジング効果について検討したものです。

 

外壁仕材料の汚れ防止に関しては、次のような成果を得ています。

 

まず、建築外装材料の汚れの実態を広範囲の実態調査より把握し、その原因を解明し汚れの類型化を行い、建物の形状の特徴から汚れ発生の推定方法を確立しました。その中では、特に雨水の流れにより生じる筋状の汚れが目立ちやすく、そのような汚れを低減する材料開発および壁面での雨水の制御が重要であることを指摘しました。

 

また、微粒子付着等による仕上材料表面の変色のメカニズムを、吸着理論を応用した独自の占有面積理論により定式化し、汚れの経時変化を、その進行速度および材料定数の2パラメータで定量的に評価する方法を確立しました。

 

次に、建築外壁材料の汚れを評価するための屋外暴露試験方法を考案・実施するとともに、屋外暴露試験結果と相関性の高い降雨による汚れの促進試験方法を確立しました。これらは標準的な試験方法案として検討されています。

 

暴露との相関を分析する中で、外装材料の汚れ物質には親水性と疎水性の二つがあり、特に目立つカーボン等の親油性汚れは親水性の材料表面には付着しにくいことを明らかにしました。
また、屋外暴露および実験により各種材質別の汚れ防止方法を明らかにしました。

 

近年意匠材料として多用されている打放しコンクリートの汚れの発生機構を示し、汚れ低減のためには表面凹凸を少なくすること、単位水量を減らすことが必要であるとしました。

 

汚れの評価については、模擬試料を用いたアンケート調査より、材料レベルにおいては色差による評価が有効であること、建築物外壁面レベルでは画像解析手法を用いた色彩分布の多変量評価が有効であることを示しました。


 

外壁材料の汚れに及ぼす高さ・方位の影響を住宅都市整備公団住宅都市試験場の超高層住宅実験タワーを用いて実験し、東北面は汚れやすいこと、高いほど汚れにくいことなどを明らかにしました。また、様々な外壁形状の試験体を屋外に暴露し、汚れの発生と、壁面ディテール、建物形状などの建物条件との関係を明らかにしした。

 

外壁材料のエイジング効果に関する研究では、次のような成果を得ました。

 

経年変化しても好ましいと評価される外壁仕上材料の種類について実態調査を行い、レンガ、木材等の天然材料がエイジング効果を得やすいことを明らかにしました。次に様々な建物について、その劣化度を変化させたシミュレーション画像を用い、エイジング効果の時間変化に関する検査を行い、エイジング効果を得やすい建物の特徴を分析し、それらは築後約30年ぐらいからエイジング効果が現れることを明らかにしました。


 

外壁仕上材料の色彩特性とエイジング効果との関係を検討し、低彩度低明度の色彩がエイジング効果を得易いことから、長期の変退色を考慮した外壁面の配色方法を提案しました。レンガ風タイル仕上げについて、エイジング効果に及ぼす色彩、目地の種類などの影響を実験し、黄赤系のレンガ風仕上げは変色してもエイジング効果が得やすいことを明らかにし、長期の経時変化を考慮したタイルの配色・割付け方法を提案しました。

 

様々な建築物のエイジング効果について広範囲な調査を実施し、エイジング建築の条件を検討した結果、それらは、1)意匠性に優れていること、2)外壁仕上材料が汚れにくいこと、3)不均一な雨水の流れが壁面に生じないようなディテールとすること、4)外壁仕上材料の種類、色彩、テクスチャーなどが多様で視覚的な情報量が多いこと、5)経年変化することで価値が生じる素材を用いること、などを指摘しました。

 

以上、まだ未解決の課題も多いですが、建築物の美観を維持する上での設計・計画、外壁材料の開発等に役立てれば幸いです。最後に、研究のご指導、ご協力いただいた皆様に心より厚くお礼申し上げます。

 

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コンクリートの破壊に関するI氏からの質問に答える

 



研究仲間のI氏より質問を受けました。面白い内容なので紹介します。私もよく分からない部分がありますのでご意見等頂けたら幸いです。

 

<質問>
高強度コンクリートの圧縮強度を試験するさいに、最大強度に達する前の段階で小さな破壊が発生し荷重が一部開放される。そのために、最大強度を検知した時点で除荷を自動的に行う機械で試験すると、最大荷重に達する前に試験を終了する。

 

1. このような現象があるのでしょうか。また、このような現象を、”擬似破壊”と
呼んでいるのでしょうか。

 

コンクリートのような非均質材料では,圧縮,引張などどのような荷重条件でも,載荷の途中であらゆるところに応力集中により細かな破壊が生じます。

 

以下図が,圧縮載荷時での誇張した荷重変位曲線(クロスヘッド(載荷板)が一定に作用した場合)です。まず,最も応力が集中する一部分にひび割れが生じます(図のA点)。

 

説明: Macintosh HD:Users:kitsutakayoshinori:Desktop:www:fig:P-D.gif

 

ひび割れが生じるとそのまま一気に破壊しそうに思われますが,ひび割れが発生すると,ひび割れ幅の分だけ試験体全体が変形するので,クロスヘッドがそれに追従しない場合は,荷重が若干低下します(これを除荷といっています)。そうすると,ひび割れを進展するだけの荷重が作用しなくなりひび割れの進行がストップします(図点B)。

 

さらに荷重を増やすと,その部分のひび割れが再度進んでいきますが,骨材等の異物がある場合は骨材のひび割れの進展阻止効果(トラッピング効果),あるいは,圧縮荷重下の場合,横方向からの拘束効果などで,ひび割れを進展させるためにはさらに大きな荷重が必要となります。その間,他の応力集中部分がひび割れが生じる荷重となり,同じようにひび割れが進展していきます。

 

これらを繰り返しひび割れが多数発生し,最大荷重に達します。クロスヘッドの変形をどんどん増加すると,最も荷重が大きく作用するひび割れのみが大きく進展していき(破壊の局所化といいます)。その後は,ひび割れの進展に必要な荷重は低下し,全体の荷重も低下していきます(図の軟化域)。

 

以上は,クロスヘッドが完全に一定の速度で動いている場合の話で,実際の試験装置は,装置の反力軸,クロスヘッド自体などがバネのように、変形のエネルギーを蓄えています。特にそれらの剛性が低い場合は,微細ひび割れ発生と同時にクロスヘッドは停止せず,ひび割れ進展を助長する方向に動き,その時に試験体にエネルギーを供給するので(エネルギーが”解放”されるとも言う),最大荷重に達する前に一気に破壊する場合があります(脆性破壊)。すなわち,試験機の剛性が最大荷重に影響を及ぼします。

 

さて,現在の制御方法は,負の荷重になった時点Aを検出して終わり,とのことで,図に示すように微細ひび割れ発生と同時に一時的に荷重は負になるので,それを検知する精度で荷重計測しているならそこで試験は中止しますので最大強度は計れません。変位速度を一定にする変位制御の試験方法に変えれば問題ありません(クロスヘッドの下がる度を常に一定にする)。あるいは,荷重制御もよいですが,脆性破壊の可能性があります。

 

なお,図の最大荷重は試験体全体に作用する荷重の最大値ですので厳密な意味で材料の破壊発生強度ではありません。A点でのひび割れ部に作用している応力を材料の本質的な強度といってもよいです。このような評価を行うのが破壊力学となります。なお,A点を”擬似破壊”というか定義があるか私は知りません。全体の破壊に対してそのように言ってもよいかも知れませんが。

 

2.上の現象(有るとすれば)は、どれくらいの強度から発生するのでしょうか。

 

図のA点がそれに相当しますが,その値がどの程度か(たとえば最大強度の何分の1か?がわかると便利ですが),材料の非均質性,強度,試験体の寸法に影響されるので一概にはいえません。

 

簡易評価としては,荷重変形曲線が弾性域を超える,直線でなくなる部分(ただしコンクリートは非線形弾性体なので,弾性域でもゆるい曲線を描きますが)を荷重変位曲線から評価するのが一方法です。破壊力学的評価では,正確な荷重変位曲線を計測し,図のA点(ポップインという)を検出する場合もあります。

 

あとは,AE法(アコースチックエミッション)を使えば分かりますが,ンクリートの場合,載荷した瞬間に破壊が部分的に起き,それを検出してしまう場合もあり難しいです。たとえば,円柱圧縮強度試験体の割線弾性係数は,最大荷重の1/3までとしていますが,1/3までは弾性範囲と見なしてもよいかもしれませんので,最大荷重の1/3の点を目安にするという方法もあるかもしれません。

 

3.試験機で最終強度まで荷重をかけるにはどうすればよいでしょうか


 

1.で述べたように,クロスヘッドの変形速度を一定にすればよいです。変位制御(のできる専用の試験装置(MTS,インストロン,島津製など)が理想です。クローズドループ型変位制御(変位を感知しながら変位速度を制御)で正確な変位制御が出来る試験装置ですと,最大荷重以降の軟化域も計測できます。

 

ただし,アムスラー型試験機の通常の手動制御でも変位制御は十分可能です。先ほど述べたように試験装置の剛性は無限大ではないので,局所的な破壊が生じると変位が大きく進んでしまうので,XYレコーダーなどに荷重変位曲線を描かせ,グラフの変位の進展が一定になるように,手動で油圧の量を調整します。

 

慣れてくると,XYレコーダーは必要なく,変位計を見ながらでもOKとなります。さらに,慣れると荷重を示す針を見ながらでもOKです。達人に達すると,最大荷重直前でクロスヘッドを除荷しながら破壊を進展させ,軟化域も計れます。私も何人かの達人を知っています。

 

余談ですが,変形量は試験体の真の変形量を計測するのが好ましいです。試験装置から出力される変形は,クロスヘッド,などのジグの変形量も計っている場合があり,好ましくありません。ただし,コンプレッソメーターなどを使う場合は計器破損の危険性が有りますので気を付けて下さい。

 

4.これらに関する文献がありましたら教えてください。

 

とりあえず,コンクリート工学,1999/9の特集,コンクリート構造のための破壊の力学の現状,など見て下さい。


 

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建築材料分野での研究テーマの選び方


日本建築仕上学会誌 FINEX 2002.1-2より一部抜粋

 

まず、どのような研究テーマがあるかを分類する必要がある。建築材料の分野には多くの研究テーマがあるが、それらは大きく以下に分類できると考えられる。

 

(1)従来から多く研究が行われているテーマ


(2)従来からあまり研究が行われていないテーマ


(3)現在流行の研究テーマ


(4)新しいテーマ


(5)個人的に興味があるテーマ



 

(1)の「従来から多く研究が行われているテーマ」には、たとえば、「コンクリートの強度」、「コンクリートのひび割れ」、などがあろう。これらは、古くから重要なテーマであるゆえに多くの研究者が取り組んできたと判断できる。一方で、重要なテーマにも関わらず論文の数が多いということは、テーマ自体難しく、本質的な部分がまだ解決していないとも考えることができる。「○○○の×××は永遠のテーマである」とよく研究者間で語り継がれ、1ランク高く 評価される研究である。

 

この種のテーマを選ぶ時の注意点は、まず参考文献が膨大となることである。全ての文献に目を通さなければならない。それだけで大変勉強になる。 文献調査の結果を集めて調査分類し論文 にしているものもある。内容的には、数多くの論文があるため一歩前進させるのが大変難しい。ただし、同じような研究を行っている研究者が世界的なレベルで、過去、現在と数多く存在するので、研究の張合い、情報交換の楽しみなどはある。一歩進められれば素晴らしく絶賛されるが、何も成果が出ない可能性もある。

 

(2)の「従来からあまり研究が行われていないテーマ」は、(1)とは正反対である。ます、だれも行っていない研究なので研究する内容は数多くある。研究論文で最も重要な新規性を無条件でクリアーできる。参考文献を探す苦労もあまりない。論文数をかせぐこともできる。目の前に広い高原が広がっているようなものである。ただし、従来から行われていないという理由には、「重要性がない」「価値がない」「役に立たない」などの場合もあるので注意が必要である。重要で価値があるが難しい、という理由でだれも手をつけていないテーマに取り組み、成果をあげれば間違いなく最高の評価が得られるであろう。

 

(3)の「現在流行の研究テーマは、最近ではリサイクル関係などがあげられる。この種のテーマは5年周期ぐらいで必ず現れる。自然科学の分野では最先端のテーマ(IT、ガン?)などがありその成果の発表は一刻を争い、しのぎを削る。建築材料の分野ではそれほどの先駆者争いはなく、ゼネコン、メーカーなどが実用化できるような成果をあげることが重要であり、ゼネコン、メーカーなどが実用化すると徐々に消えていくようである。

 

(4)の「新しいテーマ」には、新材料の開発などがある。建築材料の分野では、実際の建築に使ってもらう良い材料を研究・開発するのが究極の研究テーマではないかと個人的に思う。ただし、素材自体の開発は化学、物理の研究に負うところが大きく、建築材料の分野では、いかにそれらを 複合し組合わせ、新たな高性能の材料とするかが研究のポイントになると考えられる。

 

この種の開発研究には、理論的な考察から新材料を開発する演繹(えんえき)的な方法と、試行錯誤で実験を行い偶発的に新たな材料を発見し、その後理論体系を確立するという帰納的な方法の2種類がある。前者はかなりの理論的素養が必要であり、後者は 体力・根気 がものをいう。新材料に関する研究のほとんどが 後者 であろう。

 

(5)の「個人的に大変興味があるテーマ」であるが、そもそも、研究とは孤独な作業であり、実験などは場合によっては何日も徹夜することもあり過酷であり研究者はそのような能力に優れなければいけないと言われている。それだけのエネルギーを発揮するためには、まずテーマに興味がないとだめである。

 

ところで、日本では建築学は工学に含まれ、工学は理系に分類されている。大学の建築学科に入学する人間のほとんどは、高校時代に数学、物理が得意であった理系の人間と考えてもよいであろう。建築の研究論文の中に、ときどき難解な数式だけの論文を見かけることがあるが、これは数学が好きで興味があるからであろう。私自身も理系の出身なので数学に没頭する気持ちは分からないでもなく、「難解な数式だらけの論文は論文らしくて良い」という評価もあってよいとは思うが、具体的な成果が期待される企業の研究ではなかなか難しいであろう。個人的に興味があることと社会的な要求が合致するとすばらしい研究になるのは間違いない。

 

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2001年度日本建築学会賞(論文)

日本建築学会 建築雑誌 20018月号 受賞記事より

 

破壊力学手法によるコンクリートの靭性向上に関する一連の研究

橘高義典 東京都立大学教授


 

このたび,標記の論文に対して,2001年日本建築学会賞を頂き,身に余る光栄と深く感謝しています。コンクリートの最大の欠点は,引張に弱く,ひび割れが発生しやすい点です。RC部材では引張力は主に鉄筋が受け持ちますが,耐久性も考慮したコンクリート構造物の性能から見ますと,かぶり部分の引張ひび割れ抵抗性は重要です。

 

コンクリートの剥落問題・鉄筋腐食による耐久性低下など,RC構造物が有する多くの問題を解決し,今後のRC構造物の基本性能を向上させるためには引張に対するコンクリートの靭性の向上が大きな課題といえます。特に,コンクリートのような非線形材料では,微細なひび割れの蓄積・進展などが性に大きく影響するため,ひび割れ進展を科学的に扱う破壊力学的な観点からの検討が不可欠と考えられます。

 

本論文は,コンクリートの靭性向上を目的とした一連の研究をまとめたものです。まず,破壊力学手法に基づきコンクリートの破壊靭性を評価する手法を確立し,さらに広範囲のコンクリートについて靭性向上の方法を検討したものであります。


本論文は全8章で構成され,それらは日本建築学会構造系論文集の9編の論文と Journal of Engineering Mechanics, ASCEの1編の論文をもとにとり纏めたものであります。

 

第1章では,コンクリートの引張軟化曲線の多直線近似解析法を提案しています。引張軟化曲線をわかりやすく説明すると,ワインのセンを抜くときの力と抜け量の関係曲線です。最初は大きな力が必要ですが抜け量が大きくなると力は小さくて済みます。センが硬く短い場合には一気に抜け危険です。これが脆性破壊に相当します。長いセンの場合は徐々に力を緩めることができ安全に抜けます。これが延性破壊に相当します。

 

コンクリートは引張力を受けると微細なひび割れが生じますが,ある程度力を伝達するので引張軟化現象を生じます。繊維が中にあると,力の伝達が大きくなり引張軟化曲線も大きな形となります。このように引張軟化曲線が評価できれば材料の靭性も評価でき,さらに数値解析の材料構成則として応用できます。

 

従来の評価方法には,Roelfstraらの2直線モデル逆解析法,LiらのJ積分による推定法などがありました。本研究で示した解析法は,荷重変位の計測結果とフィットする引張軟化曲線を逆解析で求める際に,すでに求められている引張軟化曲線を構成則としてひび割れ方程式に組込みながら逐次逆解析していくため,推定精度が高いという点に特徴があります。ひび割れ幅は常に単調増加なのでこのような逆解析が可能になります。

 

たとえば,ある組織の適任者を選ぶ場合に,最初から4人一気に選ぶ(2直線モデル逆解析法)のでなく,1人選んだら彼に協力してもらい年齢の若い2人目,3人目は2人に協力してもらい,と次々に人数を増やし若い適任者を選んで行きます。この方法ですと全員が納得する人選が出来ます。

 

この解析法は1年間のMIT研究員時代に試行錯誤し悩んだ末に突然思いついたもので,コンピュータ画面にきれいな軟化曲線が現れたときの興奮は今でも忘れられません。MIT滞在中は破壊力学の多くの文献、優れた研究者との交流などから得られた知識も貴重でした。特に,Castiglianoの定理を応用した応力拡大係数の積分式によるひび割れ変位の算定方法は、在でも様々なひび割れ問題の解析に有効な手法となっています。

 

第2章では引張軟化曲線からコンクリートの破壊パラメータを評価する手法を提案しました。前章で示した引張軟化曲線の逐次解析により,任意破壊進展時での結合力の成した仕事量が算定でき破壊の進展に伴うエネルギーを推定できます。これを単位ひびわれ進展に伴うエネルギー変化量に換算することで破壊パラメータが評価できます。この破壊パラメータを用いることで,様々なコンクリート材料の破壊靭性,ひび割れ進展抵抗性などを評価することが可能となります。

 

第3章以降は応用編で,コンクリートの靭性向上に及ぼす各種要因を実験検討しています。

 

第3章では,粗骨材の影響を検討しています。普通コンクリートは,骨材のひび割れアレスト効果によりやや延性的な破壊となりますが,高強度コンクリートでは,骨材自体の破断により脆性的な破壊となります。それは粗骨材の強度と界面状態に影響されることを示しました。

 

第4章では,ポリマー混入の影響について検討し,靭性向上のためには,ポリマーの最適な混入率があること,粗骨材の強度が大きいほど向上効果が得られやすいことなどを示しました。

 

第5章では,短繊維混入の影響を検討し,高強度コンクリートの靭性は,混入する繊維の径,繊維長が大きいほど向上すること,高強度・高剛性の繊維は初期のひび割れ進展抵抗値を大きくし,最大強度の向上に貢献すること,比較的低弾性の繊維は最大荷重以降のエネルギー吸収能に貢献することなどを明らかにしました。

 

第6章では載荷速度の影響を検討し,破壊時の変位速度が大きくなるほど破壊進展に伴うひび割れ進展抵抗値の増加度が大きくなり,荷重変位曲線での最大荷重および破壊時吸収エネルギーは増加する傾向があることを設定実験条件の範囲で指摘しました。

 

第7章では軽量化と繊維混入効果を検討し(下図),繊維混入により破壊エネルギーは増大するが,空気量が増すほど繊維とペーストとの付着面積低下などの理由により破壊に要するエネルギーは低下することを示しました。

 

 

第8章ではエポキシ樹脂によるひび割れ補修について検討し,樹脂注入によって補修後の破壊エネルギーは補修前よりも大きくなる場合があり,それは樹脂の引張弾性係数とコンクリート強度に影響を受けることを明らかにしました。


 

このような研究成果が今後のコンクリートの性能向上に少しでも役に立てれば幸いと存じます。新素材としての高性能・高靭性コンクリートにはまだ多くの課題・夢がります。今後もさらなる努力を積み重ねる所存でおります。相変わらずのご指導・ご鞭撻のほど,よろしくお願い申しあげます。

 

関連論文リスト

1)橘高義典,上村克郎,中村成春:コンクリートの引張軟化曲線の多直線近似解析,日本建築学会構造系論文報告集,No.453pp.15-251993.11(第1章)

2)橘高義典:引張軟化曲線の多直線近似解析によるコンクリートの弾塑性破壊パラメータの評価,日本建築学会構造系論文集,No.469pp.17-241995.3(第2章)

3)Kitsutaka, Y. : Fracture Parameters by Poly-linear Tension Softening AnalysisJournal of Engineering Mechanics, ASCE, Vol.123No.5pp.444-4501997.5(第2章)

4)橘高義典,中村成春:高強度コンクリートの破壊パラメータに及ぼす粗骨材の影響,日本建築学会構造系論文集, No.490, pp.7-161996.12(第3章)

5)橘高義典,中村成春,上村克郎:高強度コンクリートの破壊パラメータに及ぼすポリマー混入の影響,日本建築学会構造系論文集,No.496pp.9-151997.6(第4章)

6)橘高義典,大岡督尚:高強度モルタルマトリックスの破壊パラメータに及ぼす短繊維の影響,日本建築学会構造系論文集,No.497pp.1-81997.7(第5章)

7)橘高義典,大岡督尚:高強度コンクリートの破壊パラメータに及ぼす短繊維混入の影響,日本建築学会構造系論文集,No.501pp.7-121997.11(第5章)

8)橘高義典,高橋仁智:高強度繊維補強モルタルの破壊特性に及ぼす載荷速度の影響,日本建築学会構造系論文集,No.514pp.15-91998.12(第6章)

9)橘高義典,高橋仁智,吉岡昌洋:高強度化軽量気泡繊維補強コンクリートの破壊特性,日本建築学会構造系論文報告集,No.528pp.7-112000.2(第7章)

10)橘高義典,上村克郎,中村成春:コンクリート切り欠き試験体の曲げ試験よるひびわれ補修材料の評価,日本建築学会構造系論文報告集,No.432pp.1-91992.2 (第8章)

 

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コンクリートの歴史考

日本建築仕上学会誌 FINEX 2000.11-12より一部抜粋



 

1.日本最初の鉄筋コンクリート

 

フランス人の造園家モニエ(18231906)が,モルタルの植木鉢に金網を入れ補強したら,ひびが入らないだけでなく,セメントのアルカリによって金網もサビず長持ちすることを発見し,鉄筋コンクリートの発明に至ったという話は有名である。その後,アンネビック(18431924)によって鉄筋コンクリート部材の設計法が確立され,多くの鉄筋コンクリート構造物が造られたが,引張に弱いコンクリートを鉄筋で補強する鉄筋コンクリート造(RC)に替わる優れた構造形式は未だに現れていない。

 

今回,日本学術振興会・建設材料第76委員会の主催する見学会で日本最初の鉄筋コンクリートを調査する機会を得た。それは京都の琵琶湖疎水の途中に架けられたアーチ橋19037月竣工)である。


 

RCアーチ橋建造の背景となる琵琶湖疎水事業(1881)は,我国の土木建築の歴史に深く関わっているので最初に簡単に紹介したい。水に恵まれない京都にとって琵琶湖の水を引くことは昔からの夢であった。そのために,当時の京都市の年間予算の十数倍という膨大な費用を投入して疎水(運河)工事が行われた。純粋な日本人の技術による我が国最初の大土木事業とも位置づけられている。この疎水は,滋賀県大津市の琵琶湖取水口から京都市の伏見まで全長20kmある。途中4つの山の下をくぐらなければならず,そのトンネル工事だけで約4kmもあり,人力しか頼れない当時では相当の難工事であった。

 

京都市側の蹴上町には,日本最初の事業用水力発電所である蹴上発電所が建設され,我が国文明史に大きな足跡を残したと言われている。蹴上発電所の付近には,疎水を行商に利用するためのインクラインと呼ばれる船の運搬路,レンガ造の発電所本館,水路閣など趣のある建造物が散見される。さらに湯豆腐で有名な南禅寺もあり,秋の散策にはもってこいの場所であった。

 

さて,問題の日本最初の鉄筋コンクリートアーチ橋であるが,思ったよりは規模が 小さい。

 

      


「本邦最初鐵筋混凝土」と書かれた石碑の方が立派なくらいである(混凝土とはコンクリートのことである)。

 

 

 


単純なアーチだけなので鉄製の手すりが安全のため設置されている。一般人にはなんだと思われそうな橋だが,コンクリート短命説が騒がれているなかで,100年間存在したコンクリートというだけでも価値があろう。表面を見るとモルタル部は頑強であり,かなりの固練りコンクリートであったものと推察される。


 

2.世界最古のコンクリートは中国?

    

以前,世界最古のコンクリートについての興味深い論文(季 最雄:世界最古のコンクリート,サイエンス,1987.7)を読んだので紹介したい。一般の建築材料の教科書には,セメントが使われるようになった時期は,古代ギリシャ,古代ローマ時代と記されており,その起源は約20003000年前と考えられている。このころのセメントは気硬性であり,火山灰などのポゾランを混ぜることで水と反応し強度を発現した。現在使われている水硬性セメント(ポルトランドセメント)の発明は19世紀の始めであり,ごく最近のことである。ところが,中国では 5000年前 にすでに水硬性セメントを用いたコンクリートが存在したようである。

 

 

発見されたコンクリートは中国のほぼ中央,大地湾にある住居遺跡の床に使われていたもので,圧縮強度を調べたら100kgf/cm2であった(現在のコンクリートの約半分)。さらに驚くべきことに骨材には人工的な軽量骨材が使用されていた。セメントとして使われた結合材は料きょう石とよばれる石灰石を主成分とする岩石である。

 

問題はそれらが直接粉砕され使われたか,それとも焼成によったかである。後者ならセメントと判断できる。この検証には現在の放射線計測の技術が役立った。れは放射性炭素(炭素14)を同定するというものであり,昨今問題となっている地層の年代から推定する石器の年代推定よりは科学的である。

 

すなわち,石灰石(CaCO3)は焼成すると生石灰(CaO)となり,それに水を作用させると消石灰(Ca(OH)2)として固まり,さらに空気中の二酸化炭素(CO2)を吸収し,炭酸カルシウム(CaCO3)を生成する。このとき,二酸化炭素中の炭素14が炭酸カルシウムに取り込まれる。一方,天然の石灰石に含まれる炭素14は長い年月の間に自然崩壊してしまう。従って焼成した石灰岩の水和物からは炭素14が検出される。

 

問題のコンクリートからは炭素14が検出され,焼成した石灰を使用していたことが判明した。また,料きょう石は多量の粘土を含んでおり,これを焼成すると現在のポルトランドセメントとよく似た組成になることも分かった。


 

3.最初の打放しコンクリート

 

最後に,建築に本格的に使われたコンクリートの話である。フランスの建築家オーギュスト・ペレ(18741954)によるノートル・ダム・デユ・ランンシー教会(1923)は,打放しコンクリートの技法を最初に取入れた建築物として有名である。70年以上の歳月が過ぎるそのファサードは,多少の劣化は見られるものの,美観上はあまり気にならず,むしろ歴史の重み・風格さえ漂う。

 

ペレは「よく造られたコンクリートは大理石よりも美しい」という名言を残している。その言葉には,コンクリートという地味な材料を高貴な石に近づけようとする夢と,それを技術的に達成しょうとする執念が感じられる。打放しコリートの技法は,ペレの弟子のル・コルビュジエ(1887-1965)を経て日本にも伝わり,著名建築家による優れた打放しコンクリート建築物が多く現れた。

 

しかしながら,日本での打放しコンクリートは表面が汚れやすく必ずしも評判がよくない。ノートルダム教会の表面は全体的にざらざらとした感じに劣化しているのに対し,日本の打放しコンクリートは,表面がじわじわと黒く変色していく。これは多湿・多雨の日本の気候条件の特殊性によるものと推察される。このような変化は見た目には好ましくないが,一方でこけむした天然石あるいは緑青といった日本独自の素材の変化とどこかで通じる気もする。

 

まだ歴史の浅い打放しコンクリートである。木材,天然石等の歴史に比べればはるかに短い。その素材の変化をじっと見守りたい気もする。汚れたからといってすぐ塗装してしまうのでは永遠にコンクリートは下地のままであろう。


 

 

5000年も前から中国に存在したコンクリートは19世紀以降その技術が飛躍的に発展し今では我々の生活に欠かせないものとなっている。100年前に小さなアーチ橋に使われた鉄筋コンクリート構法も,現在では土木建築のあらゆる構造物に適用されるようになり,その用途も拡大している。

 

しかしながら今,その耐久性に対して疑問が投げかけられている。ペレの言うように大理石に匹敵する素材に成りうるか,ただの短命の下地のまま終わるか,我々技術者に課せられた課題である。さらに,「よく 年をとった コンクリートは天然石よりも美しい」という夢も追ってみたい。100年後に遺産として受け継がれていくのは,どのようなコンクリート構造物なのであろうか。大いに興味がある。 


 

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