3. 建築設計,設備設計,竣工後実態調査・運用改善に関わった主なプロジェクト

建築設計とはその設計プロセスではなく,その有り様そのものをデザインすることである.すなわち,設計時に想定したような運用がなされているか,安全・健康が確保できているか,そもそも利用者のための建築となっているのか,そうでないならば適正な状態に修正する.このようなプロセス全てによって建築になると考える.なぜならば,建築は住まい働く人々があってこそ存在意義がある.
下記のプロジェクトを通して得られた知見としては,建物オーナーの社会的責任に対する意識が低い,管理による管理のための管理の建物になっており建物利用者の声は殆ど反映される余地がない,などが実態となっていることである.過大設計やロバスト設計など工学的・技術的問題も依然として存在するものの,文化・教育・政策・経済といった問題を含めた総合的なアプローチが今後いっそう求められるだろう.

■オアシス21(大林組)2003年:実態調査
バスターミナルの改築プロジェクトである.ガラス水盤屋根を有する地下レベルの半屋外イベント広場を中心とした都市立体公園として計画された.ガラス水盤屋根による近赤外域日射の選択的吸収と潜熱蒸散によるヒートアイランド抑制効果と,下部の半屋外空間の熱環境緩和効果を,実測調査によって明らかにした.また,調査以前は運用が見送られていたドライミストによる屋外空調の運転が,調査をきっかけとして行われるようになった.

■日建設計東京ビル(日建設計)2006年:実態調査・運用改善
意匠設計者と設備設計者の密接な協業によって建築デザインと高効率な設備システムの調和を高いレベルで実現した総合的な環境性能の高いオフィスビルである.導入されている,ペリメータレス化を実現する日射遮蔽性能の高い電動自動制御外ブラインドおよび冬季コールドドラフト防止効果を有する発熱ガラスによる高性能窓システムや,搬送動力を削減するソックフィルターシステムによる低温送風,室内環境と連動するVAV 等の空調制御システムや,昼光利用による照明調光制御など個々の先進的な技術の効果・性能および総合的な性能を多面的な実測によって的確に評価し,運用改善を行った.一連の成果によって,2006年 空気調和・衛生工学会賞(第44回技術賞)受賞に寄与した.

■鶴岡市立 藤沢周平記念館(日本エアコンセンター)2007年:設備設計
寒冷気候地域における博物館建築での,間欠空調運転による気温変動を熱負荷計算で予測し,貴重な収蔵品の展示環境と省エネルギーの両立を図る空調設備計画・運用方針の検討資料を作成した.

■東京大学 強磁場コラボラトリ棟(日本エアコンセンター)2008年:実態調査
世界最大の直流発電機を強磁場発生用電源として内蔵した実験用建築物である.膨大な発熱となる発電機稼働時の機器冷却装置として,空冷ヒートポンプパッケージに,地中のクールチューブによる自然冷却を併用した計画となっており,その効果を盛夏期に検証した.

■世田谷区立芦花小中学校改築計画(NTTファシリティーズ,NTT-GPエコ)2008年:建築設計,設備設計
同一敷地内に建つ公立小学校および中学校の,複合集約化および全館空調化の計画である.学校建築物においては建築基準法の開口率規定がある中,実態としては黒板面のグレア等の問題で授業中はカーテン全閉であり,全館空調化に伴う省エネルギー計画の中で昼光利用の推進が大きなテーマとなった.ライトシェルフの採用や逆梁による採光効率への効果を熱・光連成計算によって検討し,建築的手法と設備的手法のインテグレーションによるエネルギーや費用対効果の設計検討資料を作成した.

■明治安田生命ビル(三菱地所設計)2009年:実態調査・運用改善
明治生命館の部分保存と高層ビル新築のプロジェクトである.西面に皇居が広がる他に類を見ない良好な敷地条件の最大活用と省エネルギー化がテーマであった.眺望性の確保や電波障害の制約からLow-Eガラスではなく高透過ガラスを使うため,フルハイト窓を成立させるために全面エアフローウィンドウを採用した.窓面における熱と光の最適な制御を実現するため,通風量の制御や,内蔵ブラインド自動制御について実使用状況下での実態把握と運用改善を行った.一連の成果によって,2008年 空気調和・衛生工学会賞(第46回技術賞)受賞に寄与した.

■丸の内パークビル(三菱地所設計)2010年:実態調査・運用改善
菱一号館の復元とテナント高層ビルのプロジェクトである.徹底した省エネルギーと良好な室内環境の構築のため,遮熱型Low-Eガラスによる全面エアフローウィンドウを国内で初めて採用している.自然光利用と熱負荷低減,空調システム制御のコミッショニング,執務者のプロダクティビティーへの効果を,多面的な実測評価によって現在行っている.

■セントライズ栄(安藤忠雄,三菱地所設計)2010年:実態調査・運用改善
市街地に建つ中規模のテナントオフィスビルである.東,南方位のフルハイトガラスのファサード全面を電動自動制御外ブラインドとしている.ファサードの審美性と環境性能の両立を図っている.執務者の眺望性などの要望,照明の調光制御,空調制御との連携などを踏まえたブラインド自動制御の最適運用について現在行っている.

■東京大学サスティナブルプロジェクト(東京大学)2010年:実態調査・運用改善
住宅・業務用建物における省エネルギーの必要性は明らかなところであるが,研究・教育機関である学校建築物におけるエネルギー消費の実態は,その特殊性からあまり重視されてこなかった.しかしながら,東京都による事業者毎のCO2排出総量規制においては学校建築物も例外ではなく,実務的にも早急な実態把握と運用改善の対策が求められるところである.また,社会的な影響が大きい教員・学生への省エネルギーの啓蒙によって,建築物の環境的側面の理解を広める機会としても重要である.各種設備機器の更新・運用改善などの実務的な業務に加えて,従来は不明であった大学建築物の使われ方実態の把握を進めている.


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Copyright 首都大学東京 一ノ瀬雅之