地形・地質学研究室
首都大学東京大学院 都市環境科学研究科 地理環境科学域
活動報告
2013年1月19日 
 立川断層帯&多摩丘陵巡検(案内:鈴木先生)

HU1

写真:多摩川河床にて鈴木先生がHU1の解説中.

研究室メンバーおよび駒澤大学,明治大学,日本大学の学生の方々,総勢25名で多摩地区を巡りました.

ず,現地調査が行われている立川断層帯のトレンチで武蔵野台地の地質断面を観察しました.断面には,普段はあまり目にできない立川ローム層(関東ローム層)や立川礫層(立川2面段丘構成層)が露わになっていました.表層の大部分は人工改変によって失われ,変位の様子が見難くなっていますが,断片的に残された関東ローム層の高度変化や礫層内の構造から,断層運動の痕跡が見られました.

 

後からは,上総層群黄和田層相当とされる小山田層を見ていきました.まず,立川からほど近い多摩川の河床に露出する地層を観察しました.本地点は,埋没林やゾウの足跡化石などが観察できる泥(シルト)岩で有名ですが,今回は堀之内第1テフラ(HU1),堀之内第2テフラ(HU2)の観察が目的でした.このテフラは今回の巡検のキーワードとなります.HU2は約160万年前に降下した広域テフラで,上総層群のKd25,大峰テフラと対比されているガラス質火山灰です.HU2の上位のHU1は降下軽石ですが,その上位には,ドリフトパミス(流されてきた軽石で,降下軽石ユニットよりも粗粒で円磨されています)が堆積しています.この降下火山灰(HU2),降下軽石(HU1),ドリフトパミス(HU1リワーク)の組み合わせが,両テフラの識別にヒントになってきます.

Tama_HU1

写真:多摩川の堀之内第1テフラ(HU1:下位の軽石層,層厚12cm)と
ドリフトパミス(上位の粗粒で円磨されたリワークの軽石).
HU2は写真には入っていませんが層厚10cmで確認できました.

し移動し,東京都の施設においてボーリングコアを観察しました.このコアは約20年前に掘られたもので,完全に乾燥してまるでミイラのようです.先のHU1,HU2の関係を踏まえた上で観察をすると,地下の浅いところにHU1,HU2らしきテフラが確認できました.したがって,その深度の地層は多摩川河床に露出する地層と同時期の地層であることを示します.岩相や層位関係から考えると,付近の地下一帯には多摩川で見た地層が広く分布していることが想像できます.ボーリングコアの保管されている施設の周辺には猫もたくさん分布していて,またコアと猫に会いに来たいと思いました.

 

後に,多摩丘陵内の長沼公園へ移動して,御殿峠礫層(多摩I面段丘構成層)下位の基盤にあたる上総層群(小山田層)の露頭を観察しました.雪の残る尾根を藪漕ぎし,泥だらけになりながら露頭に向かいました.ここにも,HU2およびHU1が露出しています.この地点の標高は,前の2箇所よりも高いです.したがって,多摩川―ボーリングコア―丘陵でのHU1,HU2の観察結果から,これらのテフラが狭在する地層,すなわち多摩丘陵から武蔵野台地にかけての上総層群が傾斜しているという三次元的な地質構造がイメージできました.

Naganuma_HU2

写真:長沼公園の堀之内第2テフラ(HU2:暗灰色〜褐色の層,層厚7cm).
上位の厚い白い層はリワーク.

回は,トレンチ,河床,ボーリングコア,藪こぎの先にある露頭と,地質調査でみるものを一日でほとんど網羅するという非常に密度の濃い内容でした.文献や授業から知識として知っていることを,今回の巡検のなかで改めて実物をもって体感できました.また,上総層群や御殿峠礫層は本大学の地下にも続く身近な地層です.知らない土地を知ることのできる遠出の巡検もいいですが,自分たちの足元の地層を改めてみつめてみることもいとをかし.外部の学生さんとの交流もでき刺激になりました.参加者のみなさま,ありがとうございました.(文:斎藤・植村)

参考文献:多摩川足跡化石調査団(2002)東京都昭島市の多摩川河床から産出したアケボノゾウ足跡化石の発掘調査報告書.昭島市教育委員会,15p


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