---06 川崎市立看護大学 看護学部講師 岩瀬 和恵 いわせ かずえ 首都大学東京大学院 人間健康科学研究科 看護科学域博士後期課程修了 穏やかな高齢者の看取りを実現するために ☆本人写真☆ <キャリア/今の研究>  私の専門は老年看護学という分野で、特別養護老人ホームでの看取りを主なテーマとして研究しています。都立病院の救急救命病棟で看護師として勤務していた頃、介護施設から心肺停止の状態で搬送されてきた方に心臓マッサージなどの処置をすることに違和感を持ち、次第に施設でどうにかならないのか、施設で働く看護師はどう感じているのか、疑問を抱くようになりました。主任試験に合格し、キャリアアップを目指す道もありましたが、施設での高齢者の看取りをよくしたいという思いが強く、大学院へ進む道を選びました。  前期課程では、特別養護老人ホームで働く看護師にインタビューを行いました。前期課程修了後、現職に就いたのですが、研究をしっかり極めたいと考え、後期課程に進学しました。後期課程ではインタビューに加え、複数の施設で参与観察を行いました。その際、ベテランの看護師から「入居者が亡くなる1か月くらい前から、何となくの兆候が表れる《という話を聞いたことから、看護師が経験上、肌感覚で理解していることを言語化し、尺度化することに取り組みはじめました。私の研究の根底には、施設での高齢者の看取りをよくしたいという思いがあります。穏やかな看取りを実現するために、看護師が家族と本人の意思の調整役を担えるように役立つ研究成果を出したいと考えています。 <学生時代>  大学院で学んでいるときに、町全体で若年認知症の受け入れを推進している北海道の北竜町に行き、ゼミの活動として取組を学び、当事者とレクリエーション活動を行ったりしたことは、地域に貢献することの大切さを学ぶ良い経験になりました。また、前期課程の時に、香港大学との交流会があり、私たち院生が企画を立て、浴衣を着て盆踊りをするなどのおもてなしをしたことも、楽しい思い出です。それから、かつての同僚の放射線技師と同じ院生として学内で再会したこともあり、この時はあまりの偶然にびっくりしました。 <仕事のやりがい>  大学の教員として教育活動に取り組む中で、学生の反応が勉強になる毎日です。一見、反応が薄いようでも、一人ひとりに話を聞いていけば、しっかりした考えを持っていることがわかります。それだけに、授業がオンラインだけになってしまった時は、学生の反応が見えづらく困りました。また、看護師は対面の仕事であり、相手に対して興味を持つことでお互いの信頼関係が醸成される面があるので、学生には人に興味を持つことの大切さを伝えるように心がけています。 <今後の展望>  後期課程で行ってきた、特別養護老人ホームで働く20人の看護師へのインタビューと参与観察は、その結果をまとめて論文にしました。その延長で、今は看取り期の高齢者の尺度を開発しようとしています。これができたら、経験の浅い看護師でも対応が可能になったり、本人や家族の気持ちやさまざまな準備に役立つのではないかと考えています。研究者として開発した尺度を、論文などの形にして世に出すことで知ってもらい、実際に使ってもらうことで社会に還元できるようにしたいですね。 <研究者を志す学生へのメッセージ>  私自身のことを振り返ってみると、学生の頃はまじめと言えるような学生ではありませんでした。しかし、働く中で、ライフワークにできる研究疑問(Research Question)と出会い、研究者として活動しています。自分には能力がないとか苦手だとか思い込まずに、自分の考えを大切にして頑張ってほしいと思います。また、私の大学院の同期は様々な領域で働いていますが、今でも連絡を取り合っています。そうした人とのネットワークがあることは、研究活動を進めるうえでも役に立ちます。人との縁も、どうか大切にしてほしいと思います。