---03 味の素株式会社食品研究所 健康価値開発センター 加工食品開発グループ 斉藤 早紀 さいとう さき 首都大学東京大学院 理工学研究科 生命科学専攻博士前期課程修了 アイディアを具体的な形にする ☆本人写真☆ <キャリア/今の研究>  私の専門は発生生物学という分野で、大学院ではニワトリの胚を用いて、細胞がどのようなメカニズムで分裂と移動を行い、器官ができていくのかといった、卵からヒヨコになる過程を研究しました。幼い頃から教師になることが夢でしたが、高校の生物の先生が印象的だったこともあり、専門的に学びたいと思い理学部へ進学し、更に研究を続けるために大学院へ進みました。ただ、私は研究者というよりも開発者としてのマインドの方を強く持っているようで、そのころから、アイディアを具体的な形にすることを突き詰めたいと考えていました。  大学院修了後、日本食研HDに入社し、業務用調味料の開発業務に従事しました。得意先の要望を形にする仕事でやりがいもあったのですが、もう少し広い視野で、多くの人に商品を届けるところで力を試したいと考え、味の素に転職しました。現在は、主にスープの開発に従事しています。きっとみなさんもスーパーやコンビニなどで手に取ったことがある商品だと思います。私のやっていることは、マーケッターが立案したコンセプトから味覚品質(おいしさ)をイメージして試作品を作り上げ、製造プロセスに落とし込んで商品という形にする仕事、言うなれば、アイディアを食品という形にする仕事です。 食は誰にとっても身近なもので、この仕事は私たちの生活につながっているという実感があります。 <学生時代>  企業の研究者として働いている今、経営学やマーケティングの知識の必要性を強く感じています。ですので、学部時代に教養科目で他学部の科目を履修できたことは、視野を広げることができてよかったと感じています。また、桜都寮という学生寮の運営に携わり、同年代の学生が集ってスピーチコンテストを行ったり、寮生が参加するセミナーでファシリテーションを学んだりディスカッションを行ったりするなど、学びの場を自ら作っていたことも、今にして思えばよい経験だったと思います。 <仕事のやりがい>  担当した商品が世の中に出て、お客様から反応をいただくことがやりがいになっています。商品が棚に並び、お客様に手に取ってもらう、そしておいしいという声を聞くとうれしいですし、この仕事をやってきてよかったと思います。また、会社全体として基礎研究の積み重ねがあるため、新しいものを開発するにあたって、みんなの力を合わせることでシナジー効果が生まれる環境にあることも、やりがいを感じる大きな要因ですね。 <今後の展望>  私たちの使命は人々においしいという喜びを届けるだけでなく、食を通じて心と体の健康づくりに貢献することです。昨今の急激な社会変化の中で、心の健康を保つことは簡単ではないと感じています。私は食を通じて、人々がいつまでも自分らしく健やかに生きていくための手助けをしたいと考えています。そのためにも、『おいしさ設計技術』にこだわりつつ、人々が何を求めているか、私たちは何ができるのかを考え抜いてアイデアをブラッシュアップし、具体的な形にしていきたいです。いつか私の仕事は人々を幸せにする仕事ですと胸を張って言えたらいいなと思います。 <研究者を志す学生へのメッセージ>  一つに熱中するのも良いですが、視野や興味を広く持ってほしいと思います。物事に興味を持たないと、相手に伝わるように話すことはできません。それに、引き出しを増やせば、それだけ選択肢も広がります。いろいろやってみたうえで、どの道に進むかを決めると良いと思います。また、考えることをやめないこと、考えを言語化することも大事です。言語化することは、思考をまとめて伝えることにほかならず、研究者にとっても社会人にとっても、必須のスキルと言えるでしょう。