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少しづつ書き足して いきます
ガンマ線の測定
2011/9/1 更新

放射線には
,アルファ線,ベータ線,ガンマ線 の3種類があります.この中で,ガンマ線は最も物質を透過しやすいので,測定しやすい放射線です.多くの放射性核種はガンマ線を放出するので、ガンマ線の 測定により、放射性核種の量を定量することができます.アルファ線とベータ線は透過力が弱いので、ガンマ線を放出しない放射性核種の量を正確に測定するに は、測定試料から放射性核種を純粋に分離する必要があります.そのための分離技術が必要であり,また,時間がかかります.ガンマ線 を放出しない90Srの報告が少ないのはこのためです.

当研究室では、ガンマ線を測定して、そのガンマ線を出している原子(放射性核種)の量を測定しています. 単位は、ベクレル(Bq)です.放射性核種は,放射壊変(崩壊ともいう)して,勝手に異なる原子にかわりますが、その時に放射線を放出します.1秒間に1 個壊変する放射性核種の量を1Bqと定義します.(昔は、放射能の単位としてキュリーCiが使われていました.1Ci = 3.7×1010Bq で換算できます.)
多くの放射性核種はベータ壊変します.ベータ壊変すると必ずベータ線が1本放出されます.また,多くの場合,ベータ壊変に伴ってガンマ線が放出されます が,1本とは限らずエネルギーの異なる複数のガンマ線が放出されることもあります.また,ガンマ線を放出しないベータ壊変する放射性核種もあります(例:90Sr).

検出されたガンマ線のエネルギーから放射性核種を特定することができ,検出されたガンマ線の数から放射性核種の量を定量します.


内容
 (1) 検出器
 (2) 校正
 (3) バックグランド計数
 (4)
定量下限/検出限界
 (5) 誤差

(1) 検出器

ガンマ線の測定には,主にヨウ化ナトリウム(NaI)シンチレーション検出器,または,ゲルマニウム (Ge)半導体検出器が利用されます.ガイガーカウン ターでもガンマ線を測定できますが、放射性核種を正確に定量する目的には,通常使用しません.新聞等では、NaI検出器を簡易型検出器,Ge検出器を精密 な検出器,と呼んでいるようです.
NaI検出器は、ガンマ線のエネルギーの識別能力(エネルギー分解能)は劣りますが、ガンマ線の検出能力(計数効率)はGe検出器よりも優れています.一 方、Ge検出器は,エネルギー分解能に優れていますが,計数効率はNaI検出器より劣ります.

当研究室では、ゲルマニウム半導体検出器(以下ではGe検出器と記します)を用いてガンマ線を測定しています.我々の装置は、放射性物質を取り扱うことが できるRI研究施設の管理区域内に設置されています.

最近,報道でよくみかけますが、検出器はこんな感じです.所有するGe検出器はすべてORTEC社製(SEIKO EG&G社)です.所有していませんが、有名なGe検出器メーカーには,キャンベラ社PGT社(仁木工芸社)  などがあります.

写真1
真ん中の筒が検出器本体です.検出器を銅板と鉛ブロックで囲んでいます.
写真2
下の大きな容器には、液体窒素がはいっています.

写真3
検出器からの信号を処理する機器.

(通常は、隕石の放射化分析のために使用しています.最近の成果が,検出器の写真とともに,JAXAの機関誌 JAXA's38号で紹介されました.こちらもぜひご覧ください.)

Ge 検出器は、天然放射性核種からのガンマ線,ならびに,隣の検出器で測定している試料からのガンマ線をさえぎるために鉛で覆います.通常、鉛の厚さは 10cm程度にします.また,鉛からのX線をさえぎるために銅板とプラスチック板で内張することもあります.写真では検出器が見えるようにしてあります が、測定時は鉛ですべて覆います.
使用時は,検出器を液体窒素で冷却します.写真2の薄い褐色の大きな容器が液体窒素のデュワで,1週間に1回補給します.補給は、当研究室の学生さんの大 切な仕事で,補給し忘れると検出器が壊れてしまうことがあります.

Ge検出器本体だけでは、測定はできません.Ge検出器は1500Vから4500Vの高電圧を印可して使用しますので,その電源装置、検出器からの微弱な 信号を増幅する増幅器、増幅された信号をデジタルに変換するアナログ-デシタル変換器、そして,信号をガンマ線エネルギーごとに仕分けする波高分析器,波 高分析器を制御し,かつ,データを保存するコンピュータが必要です.鉛遮蔽と液体窒素デュワも含めて、これら一式で,報道にあるように1000〜2000 万円ほどします.

この検出器システムをつかってガンマ線を測定すると,ガンマ線スペクトルが得られます.検出したガンマ線のエネルギーに対してその数をグラフにしたもの で、実際の例は(3)バックグランド計数の項で示します.



(2) 校正

測定操作はいたって簡単です.検出器の前に試料をおいて,スタートボタンを押すだけです.固体でも液体で も気体でも、測定できます.
しかし,正確に放射性核種の量を定量するためには,検出器を正確に校正しておく必要があります.

校正には、2種類あります.一つは、エネルギー校正です.検出されたガンマ線のエネルギーを正確に知るために必要です.この校正は比較的簡単です.既知の 放射性核種を測定すればOKです.2000 keVまでのエネルギーが測定できるように調整することが多いです.

二つ目は、放射性核種を正確に定量するための計数効率測定です.測定試料からガンマ線は四方八方に均等に放出されます.しかし,Ge検出器はこれらのガン マ線をすべて検出することができません.Ge検出器の方向に飛んできた放射線のみ検出することができます.つまり,試料から放出されたガンマ線のうち一定 の割合しか検出することができません.この割合を幾何効率(最大は50%)といいます.この幾何効率は、Ge検出器の形状、試料の形状、Ge検出器と試料 の距離に大きく依存します.また,Ge検出器にはいったガンマ線も100%検出することはできず,一定の割合でしか検出されません.しかも,この割合はガ ンマ線のエネルギーにより大きく異なります.つまり,測定試料の形状ごと,ならびに,使用するGe検出器ごとに,試料から放出されるガンマ線の何%が実際 に検出されるか(計数効率といいます)をガンマ線エネルギーごとに予め調べておく必要があります.
計数効率を調べるには、
測定試料と全く同じ 形状で既知量の放射性核種を含んだ標準試料を測定しま す.標準試料の既知放射能と実際に検出されたガンマ線の数の比とし て,計数効率が得られます.例として、土壌試料(100mL)の計数効率曲線(ガンマ線エネルギーに対する計数効率の変化)を次に示 します.

両対数グラフにプロットしていることに 注意してください.

これは容器に高さ5cmまで土壌を詰めた時の計数効率です.土の量が異なる場合は、土をつめた高さによって補正をする必要があります.報道 でよく見かける 縦置き型(写真2のタイプ)のGe検出器は,横置き型(写真1のタイプ)と比べて,補正値が大きくなります.試料サイズの大きい浄水(500mL)の計数 効率は、土壌の約1/3になります.

土壌用の標準試料は,日本アイソトープ協会製 です.土壌の測定に使用している容器(U-8容器と呼ばれている)は,国内では放射能測定に広く利用されているため、この形状の標準試料は購入することが できます.しかし,浄水の測定に利用している500mL試料瓶や大気浮遊粒子のフィルタ状と同形上の標準試料は販売されていません.このような場合は、既 知量の放射性核種を含む溶液を購入し、試料形状に合わせた標準試料を自分で作成します.試料瓶のように単純な形状の場合は比較的簡単ですが、いびつな形の 試料にあせて作るのは難しいです.Ge検出器が管理区域に設置されていない場合は、天然放射性核種しか利用できないので、工夫が必要です.


(3) バックグランド計数
Ge検出器は鉛で覆っていますが,天然に存在する放射性核種からのガンマ線を検出してしまいます.土壌や浄水の測定に使っているGe検出器のバックグラン ドのガンマ線スペクトルを例として示します.試料をなにもおかない状態で約1日間測定した時のスペクトルです.

横軸はガンマ線のエネルギーを,縦軸はそのエネルギーのガンマ線が検出された数(計数値といいます)を表します.エネルギーからそのガンマ 線を放出した放射性核種がほぼ分かります.(同じあるいは類似したエネルギーのガンマ線を放出する異なる放射性核種も存在するので,エネルギーだけで放射 性核種を決定できないことがあります.)
わずかですが、原発事故により環境中に放出された134Csと137Csが検出されます.おそらく,検出器 内部に吸着してしまっているものと考えられま す.事故後しばらくは,131Iも検出されましたが、現在では検出されません.これら以外は、すべて天然に存在している放射性核種 からのガンマ線です.さ らに,宇宙線由来のものもあります.
K(カリウム)は,我々の体内にも存在する元素です.カリウム原子のおよそ0.01%は40Kなので,我々の体内か らも放射線がでているこ とになります.



(4) 定量下限/検出限界

放射能に限らずどんな分析法でも,検出できる量には下限があります.全く含まれていせん,0です よ,ということを実験で証明することは困難です.そこで,この量以下は検出できませんよ,という値(検出限界とか定量下限という)を目的の物質が検出され なかった場合に示します.
放射線測定の場合、この検出限界は,測定時間,共存する放射性核種の量,バックグランド計数(測定試料をおかずに測定した時の計数)に依存します.濃度で 表示する場合は、試料量にもよります.共存する放射性核種の量に依存するため、測定試料ごとに検出限界は異なります.鉛遮蔽が不十分な場合、天然放射性核 種や宇宙線によるバックグランド計数が高くなり、検出限界が大きくなってしまいます.(ちなみに,十分にバックグランド計数を下げ,極微弱放射能を測定す る場合は、Ge検出器を地下に設置します.国内では金沢大学の尾小屋実験施設が有名です.)

検出限界は、目的のガンマ線が検出できるであろう領域の計数値の平方根の3倍を計算し、これを放射性核種の量に換算します.



(5) 誤差

ここで測定しているガンマ線をはじめとする放射線は, 放射性核種の放射壊変に伴って放出されます.この壊変現象は,確率的現象の一つで,ある1個の放射性核種がいつ壊変するか予測できません.(半減期の時間 だけ経つと壊変するのではありません.) しかし,どれくらいの確率で壊変するかは分かっています.コイン投げと同じです.投げた時に表と裏のどちらがでるか分かりませんが,表または裏がでる確率 は 50%であることはわかっています.

コインを投げて表裏がでる回数を調べて見ましょう.
表のでる確率は 50%とわかっていますが,投げる回数が少ない時は必ずしも表のでた数が投げた回数の1/2になりません.投 げる回数を増やしていくと,表と裏のでる回数がだんだん等しくなっていきます.次に,逆を考えてみましょう.つまり,表がでた数から何回コインを投げたの かを考え ます.例えば,5回表がでたことがわかれば,おそらく10回コインを投げたのだろう,と予測します.しかし,回数が少ないとは投げた回数を正確に予測する ことができず,回数が増えるほどより正確に予測できるようになります.

これと同じようなことが放射線の測定にも当てはまります.投げる回数は放射性核種の数(放射能)に,表が出た数はある一定時間の間(測定時間)に壊変した 放射性核種の数(放射線の数)に相当します.一定時間のあいだに壊変する確率を壊変定数[λ]といい,半減期[T1/2]と反比例の関係 [λ × T1/2 = loge2 ≒ 0.693]があります.つまり,同じ試料を同じ時間だけ測定しても、毎回同じ数の放射線が検出されるわけではなく、必ずばらつき ま す.このばらつきは、測定時間が長いほど小さくなります.または,放射能が強いほど小さくなります.このばらつきを,計数誤差または統計誤差といいま す.この誤差は1回の測定のみで統計学的に推定することができ、検出された放射線の数(計数値といいます)の平方根として求められます.すなわち,計数値 をNとすると,N ± √N と表示します.例えば、計数値が10,000カウントだとその誤差は100カウント,100カウントだとその誤差は10カウントとなります.10,000 カウントの計数値だとその誤差は計数値10,000の1%,100カウントだと誤差は計数値の10%となります.この%が測定の精度を示します.計数値が 大きいほど、精度は高くなります.よって,精度を高くするには測定時間を長くして、得られる計数値を大きくします.ただし,精度を10倍にするには、測定 時間を100倍長くする必要があります.

放射能は放射線の測定から求めますから、定量された放射能の値にも,放射線測定での計数値の誤差に由来する誤差が必ずあります.放射能の値だけ報道されて いますが、これらの値にも必ず誤差があります.(測定実施機関では計算しているはずです.)
放射能濃度(Bq/kg)が高いからといって,誤差が小さい,精度の良い値とは限りません.測定に用いる量が少なく,かつ,測定時間が短いと小さい計数値 しか得られないので,精度は悪くなります


更新
2011/9/1  誤差の説明を追加.その他にもいろいろ修正・加筆.
2011/8/4  公開


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