東京都立大学
気候システム研究グループ
Climate System Research Group
Tokyo Metropolitan University

研究内容

 
最近10年間の梅雨前線帯の降水活発化 ~令和2年7月豪雨との関連~
 

Takahashi, H.G. and Fujinami, H., 2021: Recent decadal enhancement of Meiyu–Baiu heavy rainfall over East Asia. Sci. Rep., 11, 13665, doi:10.1038/s41598-021-93006-0. [Web Page]
 
梅雨前線が最近10年間は非常に活発であることが、長期間の人工衛星観測から明らかになった。これは、
(1)不活発な台風活動に関連した水蒸気輸送の強化
(2)ジェット気流上の波動
などと関係している。2020年も似た傾向である。

 
コンピュータ・シミュレーションで気象・気候現象の仕組みに迫る
 
東京都立大学のwebマガジンに掲載されたインタビュー記事(「私の研究最前線」)。 [Web Page]
 
1961年から2012年までの日本における降雪特性と豪雪の長期トレンド
 
Takahashi, HG., 2021: Long‐term trends in snowfall characteristics and extremes in Japan from 1961 to 2012. Int J Climatol. 41: 2316– 2329. [Web Page]
 
  日本海側の雪が減少傾向であることはよく知られているが、太平洋側では、雪が増えているかも。少なくとも南岸低気圧による降水日は増えていそうである。また、 南岸低気圧 を含む低気圧活動も活発化傾向にある。
  • 過去約50年の日本の雪の長期変動について調べた。
  • 温暖化による降雪が降水に変化するだけでなく、降水量(降水頻度)の変化も重要であり、雪の変動を複雑にしていることがわかった。
  • 近年の豪雪傾向についても考察した。
 
東京での雪の予報に寄与する新たな要素を発見 -日本周辺の海面水温が影響-
 
Takahashi, Hiroshi G., and Takuya Yamazaki, 2020: Impact of sea surface temperature near Japan on the extra-tropical cyclone induced heavy snowfall in Tokyo by a regional atmospheric model, SOLA, doi:10.2151/sola.2020-035. [Web Page]
 
南岸低気圧による大雪のシミュレーション。関東の東の海上の海の温度が重要かもしれない。
  • 南岸低気圧に伴う東京の大雪事例に関して、日本近海の海面水温の影響を気象シミュレーションにより、調べた。
  • 黒潮大蛇行に伴う海面水温による大気の冷却効果が注目されていたが、その冷却効果は重要でないことがわかった。
  • 関東と東北の東の海面水温が関東地方の気温に影響を及ぼし、東京の降雪に強い影響を及ぼすことがわかった。
 
夏季アジアモンスーン降水の将来変化:台風・熱帯擾乱活動の重要性
 
Takahashi, H. G., N. Kamizawa, T. Nasuno, Y. Yamada, C. Kodama, S. Sugimoto, and M. Satoh, Response of the Asian Summer Monsoon Precipitation to Global Warming in a High-Resolution Global Nonhydrostatic Model. J. Climate, doi: 10.1175/JCLI-D-19-0824.1. [ Web Page]
 
台風などの熱帯低気圧は、 瞬間風速的な 気象災害などで重要なことはよく知られているが、 長期的な 気候変動などの視点でも重要である。
この研究は、熱帯低気圧が長期的な降水量変動にも重要であることを指摘した。
  • 日本を含むアジアモンスーン域における、夏季の降水量の将来変化について、台風などの熱帯擾乱活動の将来変化に注目し、高解像度でかつ長期の気候シミュレーション出力を解析した。
  • 降水量の将来変化には地域特性があり、モンスーントラフと呼ばれるインド北部・インドシナ半島から北西太平洋まで東西に延びる帯状域で、顕著な増加が予測された。
  • 高解像度シミュレーションによって台風などの熱帯擾乱の活動度を調べた結果、これらの活発化がモンスーントラフ上の降水量増加の重要な要素であることがわかった。
 
雨粒の大きさの世界的な分布と季節変化を宇宙から観測
 
Yamaji, M., H. G. Takahashi, T. Kubota, R. Oki, A. Hamada, and Y. N. Takayabu, 2020: 4-year climatology of global drop size distribution and its seasonal variability observed by spaceborne Dual-frequency Precipitation Radar. J. Meteor. Soc. Japan, 98, 755-773. [ Web Page]
  • 宇宙から雨を観測する人工衛星のデータを用い、世界の雨粒の大きさの分布とその季節変化を4年分調べた。
  • 熱帯から中緯度に至るまでの地球規模での雨粒の大きさ(平均雨滴粒径)の分布が初めて明らかになり、海上に比べて陸上で雨粒が大きいことをはじめ、雨粒の大きさの特徴的な地理的分布が得られた。
  • 北西太平洋に着目した解析から、雨の構造の違い(温帯低気圧に伴う層状性の雨か、熱帯の対流性の雨か、など)が季節によって変わることに対応して、雨粒の大きさも季節によって顕著に変化していることがわかった。
 
人為起源のエアロゾル(大気環境物質)による水循環への影響とその季節性
 
 

Takahashi, H.G., Watanabe, S., Nakata, M., and Takemura, T. 2018: Response of the atmospheric hydrological cycle over the tropical Asian monsoon regions to anthropogenic aerosols and its seasonality. Progress in Earth and Planetary Science (PEPS), 5, 44, https://doi.org/10.1186/s40645-018-0197-2. [Web Page]
 
あまり知られていないかもしれないが、大気汚染(エアロゾル)は、気候との関連が深い。特に、大気汚染のひどいアジアでは、大きな問題である。さらに、火山噴火や森林火災なども関連する。雲がキーワード。

 
日本近海の海面水温が関東の高温多湿な夏に寄与していることを発見
 
Takahashi, H. G., S. A. Adachi, T. Sato, M. Hara, X. Ma, and F. Kimura, 2015: An Oceanic Impact of the Kuroshio on Surface Air Temperature on the Pacific Coast of Japan in Summer: Regional H2O Greenhouse Gas Effect, Journal of Climate, Vol. 28, No.18, September 2015: 7128-7144. [Web Page]

Fig. Regression coefficient of the simulated precipitable water (mm) and vertically integrated water vapor fluxes (kgm-1 s-1) in August on the normalized SST over REF Kuroshio during the 31-yr period from 1982 to 2012. All plotted vectors are statistically significant at the 99.9% level, as determined by correlation coefficients based on 29 degrees of freedom.

  • 過去 31 年分のデータに基づいた領域気候モデルを用いた数値シミュレーションにより、関東の夏の気温に対する海面水温の影響を評価した結果、日本近海の海面水温の変化が関東地方の気温変動に影響を及ぼしていることを明らかにした。
  • 具体的には、関東南沖を流れる黒潮周辺の年々の海面水温の変動が、関東地方の気温変動を増幅しており、約3割の気温変動は海面水温の影響によって説明できることが分かった。また、長期的な海面水温変化が長期的な気温変化に部分的に寄与していると考えられる。
  • さらにまた、日本近海の海水の蒸発量の増加が関東地方の水蒸気量の増加を引き起こし、地域スケールの温室効果を強化している可能性も示唆された。
 
2011年のタイにおける大洪水時の大気循環場(気象場)の特徴を解明。-熱帯低気圧活動の活発化による-
 
Takahashi H.G., H. Fujinami, T. Yasunari, J. Matsumoto, and S. Baimoung, 2014: Role of tropical cyclones along the monsoon trough in the 2011 Thai flood and interannual variability, Journal of Climate, November 2014. [Web Page]

Fig. (a) Precipitation time series generated from theCMAP dataset for the rainy season (May–September) over the reference region of Indochina (12.58–208N, 97.58–107.58E) from 1979–2011. The reference region is used for the regression analysis in (b),(c) and is indicated by a solid rectangle in these panels.
 
(b)Regression ofCMAPdata during the rainy season against the normalized data (mmday21) shown in (a) from 1979 to 2011. (c) As in (b), but for the 850-hPa zonal and meridional winds and streamfunction (colors) during the rainy season. Areas with colors in (b) and plotted vectors (winds;ms21) and contours and colors (streamfunction; 106m2 s21) in(c) are statistically significant at the 90% level, as determined by correlation coefficients based on 31 degrees of freedom (df).

  • 2011年に起きたタイの洪水に関連する大気循環場について調べた。
  • 2011年には低気圧性循環の偏差と多数の熱帯擾乱が、モンスーントラフ場で見られた。モンスーントラフとは、インド亜大陸北部、ベンガル湾、インドシナ、西太平洋に連なる平均場で見られるトラフである。モンスーン西風は平年程度であり、その強弱は、2011年の洪水への影響は小さいと判断される。
  • 同様の結果は33年間の統計的な解析でも確認された。5月から9月の5カ月の積算降水量はモンスーントラフ付近で同位相で年々変動していた。また、インドシナで降水量が多い年には、モンスーントラフ付近で低気圧性偏差が強く、西進擾乱が多かった。
  • 33年間の統計的な解析では、季節積算降水量に対する西太平洋やニーニョ3.4領域の同時期の海面水温変動の影響は不明瞭であったため、この海面水温の影響は限定的であると考えられる。
 
ENSOによるエアロゾルの光学的厚さの年々変動は乾燥と湿潤では非対称な変動であることを見出す
 
Yamaji M. and H.G. Takahashi, 2014: Asymmetrical interannual variation in aerosol optical depth over the tropics in terms of aerosol-cloud interaction, SOLA (Scientific Online Letters on the Atmosphere), October 2014, doi:10.2151/sola.2014-039. [Web Page]
Left Fig. Composite anomalies in aerosol optical depth in (a) SON of the El Niño years, (b) SON of the La Niña years, (c) DJF of the El Niño years, and (d) DJF of the La Niña years (95% confidence limit as determined by Student’s t-test). Gray portions indicate missing values.
 
Right Fig. Scatterplot between three-month mean precipitation (unit is mm day−1) and AOD (from Terra and Aqua) over the Maritime Continent (105°E−140°E, 10°S−5°N) from 2000 to 2012 in (a) SON and (b) DJF. Red, blue rhombus, and asterisk symbols are values for dry (El Niño), wet (La Niña), and neutral years respectively. Lines in (a) are least-squares regression fits to data points using values from the El Niño and La Niña years together (dotted line) and separately (solid lines).
  • エアロゾルー雲相互作用の観点から、熱帯域におけるエアロゾルの光学的厚さ、雲の有効半径、降水量の年々の共変動について統計的に調べた。
  • エルニーニョ・南方振動(ENSO)を基準として、SON(9月10月11月)とDJF(12月1月2月)についてのコンポジット解析を行った。海洋大陸において、特にSONでは、エルニーニョ年の降水量の減少と同期して、エアロゾルの光学的厚さが増加し、雲の有効半径が減少していた。これは、降水量減少によるエアロゾルの湿性沈着が減り、それにより雲核となるエアロゾルが増え、雲核が増えることにより雲の数濃度が増加し、それぞれの雲粒の有効半径が減少し、雲成長が遅くなることで降水量少なくなるというフィードバックプロセスによるものと考えられる。
  • 上記のフィードバックは、乾燥時にのみよく働くため、エアロゾルの年々変動は、乾燥時に強い傾向があるため、非対称になっているものと考えられる。実際に上記のプロセスが主要な要因であるのかについては、数値モデルを用いた定量的な評価が必要である。
 
日本海の海面水温(SST)が日本の降水量に及ぼす影響 -1KのSST上昇で7%より大きい降水量増加?-
 
Takahashi, H.G., N. N. Ishizaki, H. Kawase, M. Hara, T. Yoshikane, X. Ma, and F. Kimura 2013: Potential impact of sea surface temperature on winter precipitation over the Japan Sea side of Japan: A regional climate modeling study. Journal of the Meteorological Society of Japan (JMSJ), April 2013. [ Web Page]
Fig. Time series of simulatedprecipitation over the reference region 1 (137-140°E, 36.5-38.5°N; shown in Fig. 1), except for the ocean. Black, pink, red, and light-blue lines indicate CTL, SST+1K, SST+2K, and SST−1K, respectively. The precipitation was accumulatedfrom 00 UTC 1 January 2006. The unit is millimeters.
  • 4.5-kmの領域気候モデルをもちいて、日本海の海面水温(SST)に対する日本海側の降水量の感度を調べた。実験の初期境界値には、再解析と観測値を用いた。SSTのみを変えた、3つの感度実験(-1K, +1K, +2K)を行い、それらの違いから降水量の感度を定量的に計算した。
  • 数値実験の結果、日本海側の降水量は、SST 1Kの上昇に対して、6−12%増えることが分かった。この降水量の変化は、日本海上での潜熱がSST 1Kについて、11-14%増えることに関連している。地表面付近の相対湿度はほぼ一定なので、増加の大部分はクラジウス-クラペイロンの式により説明できる。7%からのずれは、顕熱の増加に伴う、境界層の成長により定量的に説明できる。
  • この結果は、複数の大気海洋結合モデルによる日本海における海面水温予測の不確実性が1Kあれば、日本海側の降水量が10%の不確実性を有することを示唆している。
 
熱帯湿潤域での10kmから100kmスケールの領域規模の森林伐採が降水量を増加させる可能性
 
Takahashi, H.G., T. Yoshikane, M. Hara, K. Takata, and T. Yasunari 2010: High-resolution modelling of the potential impact of land-surface conditions on regional climate over Indochina associated with the diurnal precipitation cycle, International Journal of Climatology, 30(13), 2004-2020, Janurary 2010, doi:10.1002/joc.2119. [ PDF]
Fig. Total amount of monthly precipitation of (a) WET and (b) DRY. Differences in monthly precipitation (c) between DRY and CTL (CTL–WET) and (d) between CTL and DRY (DRY–CTL) are shown. The numbers of pentads out of 18 that calculate increase in pentad precipitation (e) between DRY and CTL (CTL–WET) and (f) between CTL and DRY (DRY–CTL) are shown. The calculation period of each experiment is three months, which is 18 pentads (90 days). The numbers of pentads that show increase in precipitation were counted at each half-degree grid. White and black lines indicate the disturbed region.
  • 本研究では、5kmの水平解像度の領域気候モデルを用いて、湿潤な熱帯域であるインドシナ半島における地表面状態の変化が領域規模の気候に及ぼす影響を調べた。この地域では、過去から現在まで、人為的な地表面改変が続いている。
  • 地表面モデルと結合したモデルを用いて、地表面状態を全て予報する再現実験を行った。さらに地表面状態の変化の感度を調べるための土壌水分固定実験を行った。側面境界条件は観測値で強制した。森林伐採を想定した地表面状態を乾燥化させた感度実験を行った。
  • 結果は、森林伐採を想定し、乾燥化させた地表面状態では、その伐採域において降水量が増加した。降水量の増加は夜間の雨の増加が顕著だった。この地域では、夜間に雨が降る。この降水量の増加は、地表面状態の変化により強化された局地循環によって、夜間の水蒸気量が増えたことに因ると考えられる。熱帯域の地表面状態の変化の影響は、降水の日周変化と関連していると考えられる。
 
地表面改変の気候への影響
 
(大気陸面相互作用、森林伐採、耕作地化、都市化、領域気候モデル)
 
人間活動が地球の気候に及ぼす影響の一つとして、地表面改変がある。具体的には、森林伐採、耕作地化、都市化などがある。改変域とその周辺の気温や降水量など、気候への影響を調べている。人間活動により地表面が乾燥化すると、地表面が受け取ったエネルギーの配分が変わり、大気が乾燥化・高温化する。それにより気温が変化するだけでなく、蒸発量の減少による水蒸気量の変化などを通して、降水量にも影響を及ぼす。森林伐採により、伐採域で降水量が減少するのが一般的に知られているが、条件によっては増加する可能性も十分にある。また、地表面の色が変わることで、 地表面が受け取るエネルギーが変化することや、地表面の凹凸の変化などにより、大気の流れが変わることも重要である。
 
熱帯域の降水量と降水システム
 
(降水気候学、水循環、TRMM, GPM)
 
熱帯域の降水活動は、多量の潜熱の解放を通して、地球規模の大気循環を駆動する。中緯度地域に比べて、観測網が発達していない熱帯域では、降水量の推定自体が重要な課題である。過去17年間という超長寿命の熱帯降雨観測衛星(TRMM)により、詳細な降水分布の把握が行われ、現在はGPMに引き継がれている。長期間の安定した衛星観測は、地球規模の気候、水循環の理解を発展させている。
図:TRMM-PRにより観測した年降水量分布。1998年から2012年までの15年間の気候値。単位は、mm/day。
 
水循環
 
(蒸発散量、降水量、水蒸気輸送、水蒸気滞留時間、雲)
 
地球温暖化により、蒸発量・水蒸気輸送・水蒸気滞留時間・雲・降水量がどのように変化するのだろうか。
 
湿った局地循環
 
(TRMM, GPM, 水蒸気、高解像度気候モデル)
 
局地循環は、数百kmよりも小さなスケールの熱的なコントラストにより生じる。海陸風や山谷風などがその代表である。熱帯では(中緯度の夏季でも)、この局地循環が雲・降水活動を伴う。そのような湿潤過程を含む局地循環を、「湿った局地循環」と呼ぶことがある。局地循環により生じた降水システムは、一般風と関連しながら、様々な方向に移動・再発達をする。特に熱帯域では、日周変化が卓越する。
 
対流圏水蒸気変動
 
(GPS気象学)
 
水蒸気は、温室効果ガスの一つであり地球の気候を決める重要な要素である。その一方で、雲や雨の源となることによっても地球の気候の形成に寄与している。この水蒸気量は、気候変動を調べるための観測データが限られている。共同研究などを通して、水蒸気変動を解析できるデータのアー カイブ、解析などを行っている。 また、水蒸気輸送は、地球の大規模なエネルギー輸送システムの一つであり、地球の気候形成に果たす役割は大きい。
 
日本海側の冬季の気候
 
(日本海の海面水温、寒気の吹き出し、大気海洋相互作用)
 
日本海側の冬季の気候は、大陸からの寒気の吹き出しと日本海上での水蒸気供給(気団変質)により支配されている。寒気の吹き出しは、大規模な冬季アジアモンスーン循環により変動する。水蒸気供給は、日本海上の吹き出しの風速と海面水温に因る。一見すると簡単な関係であるが、寒気の吹き出しは、日本海から熱を奪うので、水蒸気供給の結果として、海面水温を下げる。寒気の吹き出しにより海面水温が低下することにより、降水量や降雪量の変動を複雑にしていると考えられる。