極低温におけるイオン移動度

DT gate

 イオンが中性ガス中に浮いているとします。そこに電場をかけるとどうなるでしょうか?イオンは電場の向きに沿って動き始めますが、すぐにガス分子とぶつかりエネルギーを失ってしまいます。イオンはこの一連の動作を繰り返し、電場から受け取るエネルギーとガス分子との衝突により失うエネルギーとが釣り合って、ある平均速度で移動します。平均速度vdと電場の強さEの関係はvd=KEと記述されるので、比例係数Kを移動度と呼ぶことにします。イオンの移動度はイオン-分子間相互作用ポテンシャルの決定に役立てられ、イオンの幾何学的構造だけでなく電子状態に依存します。相互作用ポテンシャルの詳細な情報を得るため低温ガス中における移動度の測定は重要で、絶対温度2Kでの測定は我々の研究室が世界で唯一行うことができます。

 最近は77K,10K,4.3Kのヘリウムガス中におけるO2+イオンの移動度の測定を行いました。O2+イオンが準安定状態(a4Πu)と基底状態(X2Πg)の2つの電子状態について移動度を分離して測定することができました。図の横軸は電場の強さとヘリウムガスの密度の比E/N(Td)で縦軸は換算移動度です。準安定状態の移動度は基底状態のものより小さいという結果が得られ、準安定状態の電子雲は基底状態のものよりも広がっているために衝突断面積の違いが移動度に反映されたと考えられます。

O2 data Ne data

 また、極低温においては三体衝突反応によるイオンを核にしたヘリウムクラスターの形成が起きます。入射イオンにNe+を用いてNe+と移動管内で生成されるNeHe+の移動度の測定を行いました。10Td以下におけるNeHe+の移動度の圧力依存は三体衝突の影響だと考えられます。それぞれの移動度の極大値における衝突エネルギーはNe+-He, NeHe+-Heの結合エネルギーに対応します。さらにサイズの大きなクラスターの移動度を測定することにより三体衝突の素過程を明らかにしていきたいと考えています。

参考文献
  • J.H.Sanderson et al. J. Phys. B: At. Mol. Opt. Phys. 26, L465 (1993).
  • J.H.Sanderson et al. J. Chem. Phys. 103, 7098 (1995).
  • H.Tanuma et al. Rev. Sci. Instrum. 71, 2019 (2000).
  • H.Tanuma et al. J. Chem. Phys. 113, 1738 (2000).


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