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静電型イオン蓄積リングの建設及び運転
神野 智史,高雄 智治,小俣 有紀子,佐藤 絢子,田沼 肇,東 俊行,城丸 春夫,奥野 和彦,小林 信夫

DT

 東京都立大学において新たに静電型イオン蓄積リングが建造された.イオン蓄積リングは当初,核物理や素粒子物理学のために開発されたが,最近原子物理の分野でめざましい成果を挙げつつある.これまで開発されてきた磁場制御によるイオン蓄積リングでは,必要な磁場が(mE)1/2/q(E,m,qはそれぞれイオンのエネルギー,質量,電荷)に比例するため,低価数では重いイオンの蓄積が困難になる.それに対してイオンの軌道を電場で制御する静電型のイオン蓄積リングの場合,電場強度はE/qに比例し質量に依存しないので,多原子分子イオンやクラスターイオンなどの重いイオンの蓄積が可能である.さらに静電リングには多くの特徴がある.1)分子イオンがリング内を周回している場合,分子の振動励起状態は赤外放射により脱励起して環境温度にまで冷却される.2)イオンビームの質は周回によりエネルギーの広がりが狭くなる.3)リングに直線部分を設けることにより電子ビーム,中性ビーム,レーザーとのマージング実験を行うことができる.4)磁場を用いないので小型であり,またヒステリシスが無いのでビーム調整が容易である.このように静電型イオン蓄積リングは原子物理の研究を行う上で今後強力な道具となりえる.先駆的な研究はデンマークのオーフスグループによって静電リング(ELISA)を用いて行われてきた.最近2台目の静電リングが日本のKEKで建設された.我々が新しく建造する静電リングは基本的には先の2台のリングと共通の概念で設計される.形状はレーストラック型で周回長約8m,2箇所の直線部分があり,2つの160°の静電型ディフレクターと4つの10°偏向ディフレクターを持つ.このディフレクターはイオン源からのイオンを入射するためのスイッチングに用いられる.衝突領域としては直線部が用いられ,その延長線上に中性粒子に対する検出器を配置する.別に解離や電荷移行により質量や価数が変化して周回軌道から外れるイオンを直線部の直後で検出する.イオンの最大到達エネルギーは30qkeVで,このエネルギー領域ではバックグラウンドを抑えるためにリング内は超高真空状態に保たれる.さらにリングを約80Kに冷却した状態で定常運転する予定である.現在,我々は様々な領域での研究を計画している.例えば,大きなクラスターイオンの構造や冷却過程の研究,中性原子や電子のマージングビームを用いたイオン-原子やイオン-電子の低エネルギー衝突実験,負イオンの探索とその寿命測定などである.

参考文献


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