研究テーマ

私の研究分野は,対象とする問題・現象面から見て,大きく水文関連と水資源関連の2つの分野に分けられます.いずれの分野の研究におきましても,種々の数学的手法を提案・応用し,その問題・現象の特性解析,予測(特に実時間予測),最適制御などを行っています.これらの数学的手法は水文・水資源分野のみならず広範囲の分野で適用可能なものであります.
 一例として,カオス時系列理論と拡張カルマンフィルタリング理論を組み合わせた手法により,(複雑な水文気象時系列に適用する前段階として)本手法を太陽黒点時系列に適用し,それまでその分野で物理的・統計的手法などにより行われていた方法よりも,精度よい太陽黒点時系列の予測手法の提案を行いました.その成果(論文リストの論文番号61)は,Journal of Geophysical Research - Space Physicsという水文・水資源とは関係のない宇宙物理学分野のジャーナルで受理・発表されています.

水文関連

1.適応的カルマンフィルタリング理論の水文気象時系列解析・予測への適用
電気・制御の分野で開発され,一般化尤度比検定法をカルマンフィルタリング理論と融合した形で用いて,システムに異常が生じた場合の異常発生時刻およびその規模を推定する適応的カルマンフィルターを水文時系列解析に適用しています.特に,福岡市の92年間およびスウェーデン・ルンド市での238年間の月降水量時系列を用いて,予測モデルの予測誤差より降水パターンの異常性を定量的に検出し,これにより降水の長期的パターン特性を明らかにしています.さらに,本手法が水資源計画の利水安全度の検討に有効であることを示しています.

2.メソγスケール降雨の時空間分布特性解析およびその実時間予測手法の研究
メソγスケール降雨セルの時空間変動が確率移流拡散方程式で記述されるとして,その偏微分方程式を二重フーリエ級数により級数展開して常微分方程式に書き直し,非線形フィルターを適用して,任意の境界・初期条件および任意の観測点配置からの観測情報に対応するパラメータ同定・地上降雨強度分布の予測手法を確立し,実際の一分間地上降雨ネットワークデータに適用して提案手法の妥当性・有効性を明らかにしています.特に,確率移流分散方程式のパラメータを逐次同定・解析することにより,降雨セルの時空間挙動特性を明らかにしています.なお,本手法を地下水汚染物質の拡散にも適用しその有効性を確かめています.

3.水文気象時系列のカオス的特性解析および時系列再構築によるカオス時系列の予測手法に関する研究
南方振動指数などの時系列を対象に,新たな非線形手法を含む種々の手法により時系列の雑音成分を除去し,相関次元など提案されている幾つかのカオス的特性値を算定・解析しました.次にカオス時系列を,二次項成分まで含む一般的な非線形微分方程式で記述・再構築し,非線形微分方程式に含まれるパラメータを拡張カルマンフィルターにより逐次同定しつつ時系列を予測する手法を提案しました.本手法を模擬発生カオス時系列を対象として,本手法の特性について検討を行った後,太陽黒点時系列に適用し本手法の有効性を示しました.

4.南方振動の特性解析および日本・韓国の降水・気温との相関解析に関する研究
エルニーニョ・ラニーニャ現象と密接に関連している南方振動の統計的・長期変動特性を,基礎となる気圧データの存在状況から詳細に解析を行いました.次に,南方振動指数(SOI)と水文気象要素との相関関係は低緯度帯では顕著であるのの,中高緯度帯ではその影響は定性的には調べられているだけで,これまで定量的な直接的相関関係は見出されていませんでした.本研究テーマでは,日本・韓国の降雨・気温データを対象に,最終的に,SOIデータをその大きさによりカテゴリーに分類し,そのカテゴリー別に相関関数を解析すれば,難しい数学的手法を用いなくとも,強いエルニーニョ・強いラニーニャと分類したカテゴリーにおいて,ある特定の遅れ時間に対し,有意性の高い相関を検出できることを初めて示しています.

5.レーダ雨量計を用いたメソβスケール地上降雨量の実時間予測に関する研究
レーダ雨量計を用いて実際の地上降雨を予測するのは容易ではなく,この場合特に,レーダ定数を適切に定めることが予測精度を向上させるための非常に重要なファクターとなっています.本研究テーマでは,レーダ定数の時空間特性を詳細に解析し,その特性を組み込んで,レーダ定数を時空間的に逐次補正しながら,地上降雨の予測制度を向上させる手法を提案しました.そして本手法を実際のデータに適用し,その有効性を示しています.

6.貯留関数・タンクモデルを用いた降雨流出解析に関する研究
降雨から河川の流量を推定することは,水循環における一大テーマとなっています.本研究テーマでは,多用されている集中型降雨流出モデルを対象に,そのモデルパラメータの推定に関して,通常の最適化手法では局所解に陥いり易いことを考慮して,遺伝的アルゴリズムやSCE-UA法などの大域的探索法の適用あるいはニューラルネットワーク手法などの適用を試みています.


水資源関連

1.水資源システム最適運用管理のための意志決定支援システムの構築
様々な想定渇水シナリオに基づく水資源システム最適運用管理のための情報を提供し,政策者の的確な判断を支援する水資源管理のための意志決定支援システム(DSS)を,通常のパソコン上でユーザーフレンドリーなビジュアル表示によるインターフェイスにより構築しました.本DSSには上述の水文関連のモデルやリスク解析などの研究成果が組み込まれています.

2.堰ゲートおよび内水排除のための実時間最適制御に関する研究
セルフチューニングコントロール理論や逐次最適化手法を用いて,堰ゲートや内水排除のポンプ制御を実時間で最適に制御する手法をシミュレーションおよび室内実験で検討しています.

3.配水管網における節点需要量の実時間予測および電動バルブの自動制御に関する研究
配水管網の水圧分布の適正化を図るためのバルブの最適制御には,時々刻々変動する全ての節点需要量,管路流量および節点水頭をリアルタイムで精度よく予測することが必要不可欠となります.本研究テーマでは,配水管網内のセンサ情報を利用して,これらをカルマンフィルタリング理論により精度良く予測する手法を確立しています.また現在,ファジーコントロールによる電動バルブの自動制御についても研究を行っています.

4.複数貯水池の最適運用操作に関する研究
渇水期間における渇水被害を最小とするように,複数の貯水池からの放流量を最適に決定し操作する動的計画法(DP),確率DP,微分DPなどの最適化手法について比較検討しています.