明の地球環境あきらかセミナー   

1pptを体感してみよう

人間が作り出した天然には存在しない化学物質は現在2000万にものぼり,その内実際に地球上で使用されている物質は十数万種類と言われています.汚染された大都会では,深呼吸すれば一度に200種以上,また水道水をコップ一杯飲めば300種を超える化学物質を体内に取り込むとさえ言われています.これらの化学物質のうち最近問題となっているダイオキシンなどの「環境ホルモン」(環境省での正式名称は「外因性内分泌かく乱化学物質」という)は,非常に低い濃度で環境中に存在するものの,体内に侵入するとほんの微量でも本当のホルモンと同じような働きをし,特に生殖に関する器官にとんでもない悪影響を及ぼすことが知られています.ここで言うこの微量とは,なんとppt(parts per trillionで1兆分の1)のスケールの微量でも悪影響をおよぼすということなのです.といっても,普通の人にはこれがどのくらいの量なのかピンときませんね.そこで,今回はこの量を体感してみることにしましょう.

まず,比較的よく聞かれるppm(parts per million)は100万分の1,ppb(parts per billion)は10億分の1のことです.これらは体積で表わすときに用いられ,重さで表わすときは,μg(マイクログラム),ng(ナノグラム),pg(ピコグラム)が,それぞれ100万分の1グラム,10億分の1グラム,1兆分の1グラムに相当します.

さて,1ppt体感の手始めとしてこの1兆分の1を数字で書くと,1,000,000,000,000分の1となり,何となくその微量さが味わえますね.この量に関してよく巷ではプールに1滴の目薬を混ぜた量だと言われますが,これはよくある誇張表現かもしれません.環境問題では何事も鵜呑みにせず自分自身で確かめることが大切です.実際に確かめてみましょう.
 第9回世界水泳選手権大会が2001年マリンメッセ福岡で開催されました.この大会で,イアン・ソープは6冠を達成しましたが,このとき使用された仮設の50m国際公認プールは,50m×25mの大きさで水深は3.0mです.すなわち水量は3750トンです.ここで,目薬1滴の量はというと,約0.05ミリリットルと相場は決まっているようです.早速この50mプールに目薬1滴を垂らしてみましょう.すると計算の結果,この目薬の濃度は約13.3pptになりました.すなわち,1pptにするには,目薬1滴は13倍も入れすぎということになります.逆に言うとこの50m国際公認プールに,目薬13分の1滴だけ混ぜただけの微量さが1pptということですね.ふつうの小学校などにある25mプールならば,幅を17m,平均水深を1.15mとして計算すると,水量は488.75トンとなりますので目薬1滴の濃度は約100.0pptとなり,この小学校のプールでは目薬100分の1滴で1pptとなります.確かにこれは超微量な量ですね.いずれにしても1pptはプールに1滴の目薬というのは誇張表現でもなんでもなく,逆に珍しく過小表現ということが判明しました.

今度は,長さでこの1兆分の1(1ppt)を体感してみましょう.線路は続くよどこまでもということで,博多駅から東京駅までの長い新幹線の線路を考えてみましょう.時刻表によると博多駅から東京駅までの営業キロは1174.9キロとなっています.この長い長い線路の1本のどこかにあるキズがついていて,このキズを見つけ出すことを考えてみましょう.1pptのキズとはどのくらいの長さのキズを見つけ出すことに相当するのでしょうか?1174.9kmの1兆分の1の長さのキズですから,計算してみると,何と0.001174ミリメートルすなわち約1μm(1ミクロン)のキズを探し出すことに相当します.顕微鏡でもなければ見えない程度のキズですね.長い長い線路の中の1ミクロンのキズが,環境ホルモンの場合は影響を及ぼすというのですから本当に驚きですね.

さらに駄目押しで,大きさ(面積)で1pptを体感しておきましょう.ここでは福岡ドーム球場に行ってみましょう.福岡ドーム球場のグランド面積は,私がインターネットで調べたところによると13,500m2だそうです.ちなみに福岡ドーム球場のホームベースからセンターの距離は122mで両翼の距離は共に100mとなっています.この広いグランドのどこかに1pptの大きさに相当するものがあり,これを探し出してみましょう.その大きさはというと1兆分の1にすればいいのですから,計算すると0.0135mm2(平方ミリメートル)になります.これは1辺の長さが0.116mmの正方形の面積です.この大きさの生き物はというと,どう考えても微生物ですね.ミジンコは大きすぎ,細菌では小さすぎます.単細胞微生物で有名な中型のアメーバや小型のゾウリムシが大体この大きさに相当します.福岡ドーム球場のグランドからゾウリムシ1匹の大きさのものを探し出すのは確かに至難の業ですね.なお,アメーバやゾウリムシは水中に住んでいますので福岡ドーム球場のグランドにはいないと思いますので念のため.

最後に時間でも体験してみましょう.この場合,手っ取り早く人間の一生を80年として【2003年7月12日付の西日本新聞によると,2002年の日本人の平均寿命は女性が85.23歳(世界一),男性が78.32歳(世界第二位となっています】,1pptの時間とはどのくらいになるのか考えてみましょう.これまでの体積,長さ,面積の調査から考えてかなり短い時間になりそうですが...ここで80年の間に20回閏年があったとして,80年を秒で表すと,25億2460万8千秒です.これを1兆分の1にするわけですから,何と0.02524608秒です.100m10秒で走るオリンピック選手がわずか25センチメートル走る間に人生の1pptが過ぎてゆきます.

以上,長さ,面積,体積,時間で1pptを体感してみましたが,確かに微量だということがイメージとして実感できましたか?それにしても,こんな微量なものでも,環境に与える影響が大きいということは,環境の微妙なバランスの重要さを改めて認識させられますね.