地球の気持ちを理解するための空間スケール
「地球長」の話
前回の画期的(?)な,地球の気持ちを理解するための時間スケール「地球年」の話に引き続き,
今回は(余り画期的ではない)地球の気持ちを理解するための空間スケール「地球長(ちきゅうちょう)」の話です.
「地球長(ちきゅうちょう)」とは私が勝手に名付けたものなので聞いたことがないと思いますが,
地球の身長(南極から北極まで)を1mとして擬人的に考えようとするものです.分かり易く言うと,
地球を直径1mの球として考えるもので,考え自体は単純かつ自然なものです.ただ,地球は球なので身長1mにたいし,
胴回り(赤道)がおよそ3mとなり,相当な肥満体のイメージになります.
この身長1mの地球をここでは地球君と呼ぶことにしましょう.
地球君はマザーグースや「鏡の国のアリス」でおなじみの卵男「ハンプティ・ダンプティ」よりも肥満体となります.
それはともかく,こう考えると地球の立場に立った長さが実感できるのではないかと思います.
【なお,地球の赤道半径a=6378140m,極半径b=6356755m(IAU楕円体,1976年)より,
地球の南極から北極までの直径は極半径の2倍の12713510mとなりますので,
地球長とは長さを1271万3510分の1に縮めることを意味します.ちなみに地球年とは時間を1億分の1に縮めることでした】
さてまず,月の大きさは直径3476km,月までの平均距離は384400kmですので,地球長で考えた場合,
月君の身長は27.3センチで地球君の周りを30.2m離れて回っていることになります.私たちの感覚よりも意外に離れているのではないでしょうか.
ついでに,地球君は月君の4倍弱の身長ですが,体積は50倍,体重(正確には質量)は81倍もあります.
次に太陽さんですが,身長はなんと109mという大巨人で,地球君から11.8キロメートルも離れています.
イメージ的には福岡市西区小戸の日本一の大観覧車(高さ120m)(写真1,写真2)を
ちょうど私の職場(九州大学)から見ている距離になります(小さすぎてよく見えませんが).
この場合,太陽さんまでの距離は地球長で考えても余りピンと来ないかもしれませんね.
【なお,地球の大きさを1mmにするともう少し分かり易いかもしれません.すなわち,太陽の大きさは10.9cmで11.8m離れています】
いずれにしても,太陽さんは地球君の遙か彼方にいるのです.ついでに,太陽さんの体積は地球君の130万倍,重さは33万倍ととてつもなく重いです.
逆に,身長1mの地球君にとって人間ってどの程度の大きさでしょうか.例えば170cmの人間の場合で計算してみると,
何と約0.134μm(ミクロン)で細菌よりも小さくなってしまいます.実はこの大きさはちょうどインフルエンザウィルス程度の大きさとなり,
地球君にとって人間は,その大きさといい活動といい確かに地球環境を破壊するインフルエンザウィルスのような存在かもしれませんね.
次に水の話に移ります.地球上に存在する水の量は限られていて14億km3と推定されていますが,実はこの量は一定で,
使っても減らないし,雨が降っても増えもしないものなのです.水資源という言葉がありますが,
地球上の水はいくら使っても減りもしないし,無くなることもないのです.
この点,近い将来枯渇すると言われている石油のような資源とはえらい違いです.
水は,気体,液体,固体と態様を変えながら,主として太陽エネルギーにより,
絶えず地球表面を循環しているに過ぎないのです.地球表面の70.8%は海で覆われていて陸地は29.2%しかありません.
これでは"地"球ではなく"海"球と呼びたくなります.が,ちょっと待ってください.
ここで,この14億km3の地球上すべての水(そのうち97.5%は海の水)を直径1mの地球君の表面に均一の厚さで覆ってみるとその厚さはどのくらいになるでしょうか?
実はたった0.2ミリの厚さです.【その総量は0.68リットルとなり,地球の体積の0.13%に過ぎません.】地球君の水って,
人間の皮膚(皮膚は表皮,真皮,皮下組織より成り皮膚の平均厚さは2mmです.なおこのうち表皮の厚さがせいぜい0.2mmです)よりも遙かに薄いものだったのですね.やはり,地球君は"地"の球だったのです.
ちなみに,地球表面で最も出っ張っているものは標高8848mのエベレスト山で地球長では0.7mm,
また最も窪んでいるのは水深10920mのマリアナ海溝チャレンジャー海淵で地球長では0.86mmです.
いずれにしても地球君の表面は見た目はほとんど凹凸が無いのです.
さらに,今地球環境問題としてクローズアップされ,人間が作り出したいわゆるフロンガスにより破壊されているオゾン層の話です.
地球君にオゾン層がなかったらどうなるか?皆さんご存じのようにオゾン層は太陽からの紫外線をほとんど吸収しています.
もしオゾン層がなく太陽さんからの紫外線がすべて地球君に降り注げば,ほとんどすべての生物(動物も植物も)
の細胞が破壊され破滅するでしょう.とりあえず生き残るのは海の中,地面の下など太陽の光の届かない場所に住んでいる生物で
,人間であれば紫外線の届かない頑強な建物に立てこもり,出歩くときは紫外線カット宇宙服を着るとか夜中だけ出歩くとかするのでしょう.
オゾン層は元々地球君にはありませんでした.酸素もありませんでした.酸素は地球君が(地球年で)11才の時登場した光合成を
行う植物により作り出されていきました.オゾン層はその植物によって作り出された酸素が太陽からの紫外線と反応することによって生み出されました.
すなわち,私たちが今酸素を呼吸できるのも,太陽の紫外線が降り注ぐ中,死ぬこともなく戸外を気持ちよく歩くことができるのもみんなこれまでの植物のお陰です.感謝してもしきれないくらいです.そもそも,オゾン層がほぼ形成され紫外線の脅威がなくなり,陸上にやっと動物が進出できたのは,地球君46年の人生の中で,42才5ヶ月というごく最近のことでした.
実は地球のオゾンは地表から地上約50キロの成層圏上端にわたって分布しています.
その大半は上空20キロ前後の成層圏に集中していてオゾン層と呼ばれています.
このすべてのオゾンの量はどのくらいかというと,上空は気圧が極端に低いのでオゾンは広く散らばっていますが,
これを地表(1気圧で常温の15℃)に集めて持ってきた場合,そのオゾン層の厚さはわずか3ミリしかありません.
このことは某テレビ番組でも紹介されましたが,それを誤って,上空20キロの所辺に3ミリの厚さのオゾン層があると思っている人がいます.
これは間違いです.成層圏のオゾン層は少なくとも数キロにわたって分布していると思ってよいでしょう.それを地表換算すると3ミリとなるのです.
さて,私たちから見ると,オゾン層って遙か上空の遠い存在のように思えますが,
地球君から見たオゾン層はというと,上空20キロは地球長ではわずか1.6ミリ,
希薄なオゾン層の厚さを約10キロとすると地球長ではそれは1ミリにも満たないのです.
すなわち,地球君の表面1.6ミリの高さに厚さ1ミリにも満たない希薄なオゾン層があることになります.
皆さんオゾン層は上空ではなく地球君にへばり付いていると思っておいてください.
そしてこの頼りなさそうに見えるオゾンで全生物が守られているのですね.人間がこれをフロンガスで壊すのはあっという間です.