東京都立大学 大学院理学研究科 化学専攻

理論・計算化学研究室(中谷研究室)

Theoretical and Computational Chemistry Laboratory

遷移金属錯体・分子性クラスターの計算化学

遷移金属錯体や分子性クラスターはd電子に由来する多様な電子状態をもち、特異な物性や反応性を示すことから、現代化学におけるホットな研究対象の1つとなっている。こうした物性や反応性の起源を明らかにすることは、分子・材料設計の観点から重要であることは言うまでもないが、多様な電子状態によって生まれる複雑な分子機構を理解することは容易ではない。

当研究室では、量子化学計算を用いて遷移金属錯体や分子性クラスターの電子状態を詳細に解析し、物性や反応性の起源を分子論的に明らかにする研究を進めている。特に、ベースメタルと呼ばれるFeやCuなどの遷移金属元素を主なターゲットとして、高精度な量子化学計算を利用した精密計算解析に取り組んでいる。

密度行列繰り込み群をベースとする高精度電子状態理論の開発

多電子系をはじめとする、互いに相互作用する粒子の運動は非常に複雑であり、1体近似のもとでは波動関数を上手く計算できないことがある。特に3d遷移金属元素の含む化合物では、3d電子の高い電子密度に由来して複雑な電子状態が現れる。こうした電子状態を正しく取り扱うためには、波動関数を複数の電子配置の重ね合わせで記述する「配置間相互作用(CI)法」が必要となるが、電子配置の数は分子軌道の数に対して指数関数的に増加するため、小分子を除いては応用が困難だった。

密度行列繰り込み群(DMRG)は、CI法の波動関数の情報を圧縮することで多項式コストでの計算を可能にする比較的新しい計算アルゴリズムの1つであり、物性物理分野を中心に広く利用されている。当研究室では、分子系における実践的な高精度電子状態計算手法の確立を目指して、DMRG法をベースとする新理論・新アルゴリズムの開発に取り組んでいる。

星間空間における分子進化の理論化学

星のライフサイクルの終点である超新星爆発が起こると、内部の核融合や周囲の惑星に由来する様々な物質が宇宙空間に放出される。こうした恒星の残骸である様々な原子や分子、鉱物微粒子などが集まることで、雲のように見える領域(星間分子雲)が形成され、新たな星の素となっている。

星間分子雲は主に水素原子と鉱物微粒子(ダスト)から構成されているが、水や一酸化炭素、メタン、アンモニアをはじめ、数百種類の分子の存在が天文観測により確認されている。これらの分子は真空中のイオン―分子反応だけでは生成し得ないものも多く、ダスト表面における付加反応が重要な役割を果たしていると考えられている。しかしながら、温度10~20K、数密度:数千個/cm3(約10-17気圧)という極限的な環境で、数万年~数百万年かけて進行する化学反応を実験的に追跡することは困難を極める。

当研究室では、量子化学計算による原子・分子の物性・反応パラメータの系統的予測を軸に、星間分子雲で起こる分子の化学進化の謎に迫る研究を進めている。