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研究紹介

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「生命とは何か?」

これまでに数多くの研究者がこの問いに対して答えようとして、それぞれの立場で様々な努力してきました。我々人間はもとより、一般に生物のシステムは極めて複雑かつ多彩で深遠な現象の宝庫であると言え、生物が本来的に備えている見事な機能は、実に多くの人々の好奇心をかき立てます。

私の研究テーマは、生命現象との関連を重視しつつ、柔らかい物質の構造、安定性、ゆらぎ、相挙動、パターン形成、動的性質などの問題を主に物理学の立場から明らかにすることです。生物の研究は生物学者にまかせておけばよいと思うかもしれませんが、生命現象の中には純粋な物理現象が数多く見られます。単純な物理モデルを考えることが生命現象の本質的な理解につながることもあるわけです。

そのような例を一つ挙げてみましょう。細胞を包む生体膜は多数の脂質分子とタンパク質分子から成り、言わば脂質分子の「海」の上をタンパク質分子の「船」が動き回ることによって、生物にとって必要な機能を果していると考えられています。生体膜中でのタンパク質の運動の性質を、二次元流体中での粒子のブラウン運動とみなすことによって理論物理からのアプローチが可能となりました。

生体膜のモデル。脂質の「海」にタンパク質の「船」が浮いている。

ソフトマター

さらに近年、物理学の世界においても「ソフトマター」と呼ばれる物質を対象とする研究が非常に盛んになって きました。「ソフトマター」とは具体的には液晶、高分子、ゲル、コロイド(エマルションやサスペンション)などの柔らかい物質を指し、生物を構成する物質も一種のソフトマターです。またこれらの物質は工業的応用の観点から言えば、流体の性質を外から制御しやすいため、「賢い流体」とも呼ばれることがあり、大変応用範囲の広い材料でもあります。

液晶

液晶とは棒状の形をした分子からなる系で、温度や濃度を変えると左図のように、分子の向きがそろったり、層構造を作ったりします。液晶は文字通り、「液体」と「結晶」の性質を兼ね備えています。液晶のこのような性質は広くディスプレイなどに応用されています。

液晶のとる様々な相。(a)等方相 (b)ネマティック相 (c)スメクティックA相 (d)スメクティックC相

高分子

高分子とはモノマーと呼ばれる原子集団が数百個から数十万個結合した細長い紐のような分子です。高分子の液体ではこのような紐が右図のように複雑にからみあって存在します。高分子の例としてチューインガムがありますし、タンパク質も一種の高分子です。またゲルとは高分子が3次元の網目を構成したもので、例えば紙おむつに使われています。

(a)からみあった高分子の液体 (b)流動下で引き延ばされる高分子

界面活性剤

界面活性剤は洗剤などで用いられ、分子内に水になじみやすい部分(親水部)と油になじみやすい部分(疎水部)を持った分子で、水の中では疎水部を内側、親水部分を外側にして、ミセルと呼ばれる会合体を作ります。また界面活性剤に水と油にを加えた系はマイクロエマルションと呼ばれ、それらの濃度比に応じて左図のような様々な興味深い構造を作ることが知られています。

水・油・界面活性剤系のマイクロエマルション。(a)ラメラ相 (b)ランダム相

研究方針

このようなソフトマターを対象とする研究は、非線形・非平衡の科学に関連する新しい問題を提供してくれるため、近年盛んに研究されています。我々の研究室では、このような分野の研究を「ソフトマター科学」と呼んで、最先端の研究を行っています。研究内容は物理・化学・生物・工学にまたがる新しい学問分野ですので、意欲的な学生の参加を期待します。

研究室では、下図に示すようにソフトマターの三つの側面に焦点を当てて研究を進めていきます。生命現象は本質的に非平衡現象です。したがって、「非平衡ソフトマター」という新しい視点の学問を切り開く必要があります。また、生物は様々なソフトマターの組み合わせで構成されています。異なる種類のソフトマターを組み合わせたときにどのような新しい性質が生まれるかという問題は「複合ソフトマター」として重要になるでしょう。また、生物にとって生体膜の存在は不可欠である。さらに、異なるソフトマターをつなぎ合わせるためには、両親媒性分子が必要です。そこで、「両親媒性ソフトマター」という新しい体系を構築する必要があります。