運動分子生物学研究室

 教授:藤井宣晴  准教授:眞鍋康子  助教:古市泰郎

 首都大学東京 人間健康科学研究科 ヘルスプロモーションサイエンス学域

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研究室のメインテーマ
(3)運動の情報が細胞遺伝子へと伝達される仕組みの探索

 

 

 


細胞は、細胞内外の環境変化が変化すると、それに適応するために種々の遺伝子の発現調節を行う。筋収縮時(運動時)にも多くの遺伝子に関して発現が促進されたり抑制されたりすることが観察されている。これは、「筋収縮」という情報が何らかの細胞内情報伝達機構を介して核に伝えられることを意味する。核に至るまでの情報伝達はほとんどの場合、化学的反応(分子の電荷の変化によるコンフォメーション変化や、リン酸化など)を利用して行われるが、筋収縮自体は物理的現象である。すなわち、筋収縮という物理的現象を化学的反応に変換する何らかの仕掛けが組み込まれた細胞内情報伝達機構が存在すると予測される(22)。図9は予測される代表的な伝達機構の概略である。


細胞内情報伝達の研究では、伝達経路を構成する蛋白分子を外来性に導入した遺伝子を発現させることで、情報の流れを強化したり遮断したりといった操作が常套手段として取られる。しかし筋収縮を対象にした研究はこれまで大きな困難に前進を阻まれていた。培養した骨格筋細胞は遺伝子導入が極端に難しく、また収縮させる手段もなかった。そこで本研究室では生きたマウスの下肢筋にin vivo electroporation法で遺伝子を導入する方法を構築した(図10(23)。この方法によって安定した遺伝子産物の発現が可能となった(図11)。

 



12は、この方法を用いてJNKと呼ばれる分子がどのような細胞内情報伝達経路を活性化させるかを検討した結果である(23)JNKを過剰発現させることによってMAPキナーゼ経路およびAkt経路は抑制されることが明らかになった。しかし筋収縮時にはMAPキナーゼ経路は強く活性化されるためJNKによる抑制効果は相殺されるが、Akt経路には筋収縮による入力がないのでJNKによる抑制効果は維持されることが明らかとなった。JNKは骨格筋のインスリン抵抗性の原因と目されており)、それに対する運動の予防効果メカニズムの一端が明らかとなった。本研究室ではこれに加えて、p38 MAPキナーゼ(24)やグリコーゲン合成(25)に関する細胞内情報伝達の解析でも成果を挙げている。


 

文献

22. Fujii N, Jessen N, Goodyear LJ. AMP-activated Protein Kinase and the Regulation of Glucose Transport. Am.J.Physiol. (Endcrinol.Metab.) 291(5):E867-77. 2006

23.   Fujii N, Boppart MD, Dufresne SD, Crowley PF, Jozsi AC, Sakamoto K, Kim S, Miyazaki H, Hirshman MF, Goodyear LJ.  Overexpression or ablatiation of JNK in skeletal muscle has no effect on glycogen synthase activity.  Am.J.Physiol. (Cell Physiol.) 287(1): C200-8. 2004

24.  Ho RC, Fujii N, Witters LA, Hirshman MF, Goodyear LJ. Dissociation of AMP-activated protein kinase and p38 mitogen-activated protein kinase signaling in skeletal muscle. Biochem Biophys Res Commun. 362(2):354-9. 2007

25.   Manabe Y, Miyatake S, Takagi M, Nakamura M, Okeda A, Nakano T, Hirshman MF, Goodyear LJ, Fujii NL. Characterization of an acute muscle contraction model using cultured C2C12 myotubes. PLoS One. 7(12): e52592. 2012