福島第一原発事故に由来する放射線は日本各地で検出されました。伊豆大島においても、高い放射線量が認められましたが、数年後には著しく低下しました。このような放射線量の減少には、伊豆大島の地形が大きく関わっています。

1.伊豆大島における放射線量

伊豆大島の環境放射線量は、福島第一原発事故以前には平均13nGy/h(ナノグレイ毎時)と全国平均50nGy/hよりはるかに低い値でした。このように値が低いのは、伊豆大島を形成する基盤岩が玄武岩質であるためです。玄武岩は元来、ウラン(U-238、U-235)系列やトリウム(Th-232)系列の自然放射性同位元素を殆ど含まない岩石なのです。そのため、伊豆大島は国内でも有数の低値を示す地域になっています。

 

 原発事故後、伊豆大島では原発事故由来の放射性セシウム等により放射線量が、通常の約3.4倍の平均44nGy/hと増加し、最大値83nGy/hを示す地域も出現しました。環境放射線量がもともと低い地域であったため、僅かな人工放射性物質による汚染に対して、顕著な反応が認められました。ただし、この値も事故前の全国平均よりは低い値を示しています。

2.伊豆大島の地形と放射線レベル

伊豆大島は、面積約91km~{2}、外周約52kmで伊豆諸島最大の島で、中央部には標高764mの山頂火口を持つ三原山があります。三原山を除いた島の面積の約7割を山林が占め、元町地区には市街地があります。このような山林地帯と市街地によって構成される土地の様子は、日本を代表する景観です。

 

 島国である日本は山地の多い地形をしており、降雨多湿な気候にあります。一方、1986年に原発事故があったチェルノブイリ原子力発電所のあるチェルノブイリはヨーロッパ大陸の平坦な地形にあります。そのため、降雨による流砂の影響はチェルノブイリに比べて日本において大きく、事故由来の放射性物質は降雨によって、山地から海へと速いスピードで移動し、その場から消失しました。

 

 また、2013年10月16日に発生した大規模な土砂災害では、山岳部を中心に表層土壌が剥がされて地形が大きく変化しました。このような表層土壌の流失は、表層に飛散した放射性物質を消失させるため、放射性物質はその場所から一気に無くなり、2014年の伊豆大島の環境放射線量は福島第一原発事故以前の値に戻りました(図1)。

 

図1 空間線量マップ
2011年福島第一原発事故直後(A)、2014年大規模土砂災害後(B)
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図1 空間線量マップ
2011年福島第一原発事故直後(A)、2014年大規模土砂災害後(B)

キーワード

降雨 / 地形 / 表層土壌流失 / 放射性物質 / 放射線量