私たちの身近には地震、津波、台風などの自然外力が存在しています。それらの自然外力を受ける環境で人々はどのように暮らしているのでしょうか。

 

私たちの研究室で行う災害研究では、人の行動や生活、建造物および環境に及ぼす自然外力の影響を調査し、自然外力の潜在的な危険性(ハザード)を明らかにすることを目的としています。

 

椿園屋上からみた平成25年台風土砂災害現地の様子(発災から6ヶ月後)(photo by Ichiko)
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椿園屋上からみた平成25年台風土砂災害現地の様子(発災から6ヶ月後)(photo by Ichiko)

1.災害研究の上で伊豆大島に注目する3つのポイント

① 多様な「自然外力のハザード」が存在すること。

伊豆大島には、三原山の火山活動、2013年の台風26号に代表される強風や豪雨、そして地震津波があります。山に、空、海から災害を引き起こす自然外力がやってきます。

② 災害に対処するための「建造環境」が整えられていること。

伊豆大島の住宅は、敷地の高低差や海と山への眺めを考慮した建て方をしています。家屋のそばに、海風を和らげるための椿を主に使用した「屋敷林」を設置する家もみられます。伊豆大島では、このような伝統的な敷地利用の作法に加えて、堆積工~{1})や溶岩導流堤~{2})といった自然外力に直接対峙する施設構造物も建設されています。

土砂が入り込んだ堆積工 (photo by Kondo)
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土砂が入り込んだ堆積工 (photo by Kondo)

③ 自然外力の災害に対する「人間行動」がみられること。

伊豆大島の人たちは「すぐそこにある非日常」として災害の経験(1986年の全島避難と帰島の体験など)を語り、災害に向き合って暮らしています。

2.伊豆大島島民の防災意識を支えるもの

首都大学東京 災害復興・都市防災研究室では、2013年の台風26号水害に関する避難行動とその後の災害への備えについて、聞き取り調査を実施しています。そこから見えてきたことは、「人間行動」の側面です。具体的には、家族関係としての「血縁」に加えて「地縁(同じ地域に住むことによってできた縁故関係)」の果たした役割が大きいことがわかりました。人々は相互に声をかけ、適切な行動を促し、土砂泥流に巻き込まれた際には、救助行動を起こしていました。

 

ここで最も興味深いことは、こういった「地縁」が青年団としての意味をもつ消防団や民生児童委員、自主防災組織といった「役割モデル」とは別のつながりとして、「共助の関係」の機能を持つという点です。地域の活発な消防団や集落を母体とした婦人会のネットワークは、災害時だけに限らず、暮らしの上で大変重要な紐帯(結びつけるもの、つながり)となっています。

 

土砂流出上端付近の様子 (photo by Ichiko)
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土砂流出上端付近の様子 (photo by Ichiko)

「自然外力のハザード」と「人間行動」の情報の蓄積は「伊豆大島ジオパーク」の成立に強く関わっているように思います。伊豆大島ジオパークには「観光資源」としてだけでなく、「三原山」を中心に災害と伊豆大島の関係性を学ぶ「防災教育」の場としての意味が込められています。伊豆大島の小中学校のこどもたちは「防災教育」への関心が高く、防災への高い教育効果が認められています。教育現場からも「災害と向き合う」意識が育っているようです。

 

「自然外力による災害」と「建造環境」、「人間行動」という観点から、伊豆大島を改めて歩き、空と山と海を眺めてみましょう。きっと「防災に対する気づき」を見つけることでしょう。

脚注

1) 堆積工:火山溶岩流を受け止め、町の被害を軽減するための施設。火山溶岩流だけでなく、噴火後の降雨時の火山灰泥流、大雨時の土砂の堆積機能も有している。

2) 溶岩導流堤:三原山噴火時、外輪山から流れてくる火山溶岩流を堆積工に導くための砂防施設。

キーワード

共助関係 / 自然外力 / 地縁 / 防災教育 / 人間行動