・プロジェクトの成果と展望
本プロジェクト研究は、主に公共住宅のリファイニング建築※の技術体系の構築を目的とし、東京都住宅供給公社の住棟改善事業の監修を通じて実効的な成果をあげました。
本来的には、公共団地の再生はその広域的・都市的な再編計画とともになされるべきですが、本研究においては広域的な再編については調査・提案にとどまり、実際の施工に至ったのは住棟単体が対象となりました。今後は、広域的に連携した団地リファイニングの手法を確立し、具体的に実施していくことが重要であると考えます。
そこで本研究では、公共団地にとどまらず、広域の都市的なリファイニング手法の確立を目的とし、国内外の都市のリファイニングの調査、提案も数多く行い、成果を蓄積しました。
※リファイニング建築とは、従来の増改築とは異なり、老朽化した建物の大部分を再利用しながら、
大胆な意匠の転換や用途変更、耐震補強を可能にする建物の再生技術です。
・具体的な研究成果
1. 公共団地の団地全体のリファイニング手法の調査、研究
・ 久留米西団地において、アンケートによる実態調査および全体のリファイニング提案をまとめ、成果を書籍化しました。
烏山住宅リファイニングプロジェクト 竣工写真>>
3. 公共団地の住戸単位のリファイニング提案
・ 多摩市永山地区の都営団地を対象とし、水回りを中心とした段階的改修の提案を行いました。
4. 集合住宅の課題抽出と解決手法の提案
・ 集合住宅の老朽化や団地の過疎化に関する問題を分析し、成果を書籍化しました。
5. 既存都市のリファイニング提案
・ 佐賀県佐賀市・福岡県久留米市・愛知県名古屋市の既存市街地の実地調査およびリファイニング提案をまとめ、成果を書籍化しました。
・ モンゴル国ウランバートル市の実地調査およびリファイニング提案をまとめ、成果を書籍化しました。
6. 公共建築のリファイニング提案
・ 公共建築の現状分析およびケーススタディ提案を行い、これまでに取り組んだ公共建築の再生事例と合わせて成果を書籍化しました
1.公共団地の団地全体のリファイニング手法の調査、研究
高度経済成長期に大量生産された住宅団地は、建築や設備の老朽化、バリアフリー化やライフスタイルの多様化への対応など、様々な課題を抱えています。2010年度の本研究では、東京都久留米西団地において、約1週間一部の住戸に実際に住み込んで、アンケート調査及びヒアリング調査等を行いました。その調査結果と分析を中心に、現在、東京郊外の団地が抱えている課題と可能性をまとめ、郊外において、地域のコンテクストを生かした産業とモビリティを組み込んだ自立した団地を計画することで、地域の都市計画の核として大規模団地が再生されうることを提示しました。 これらの成果は「団地をリファイニングしよう。」として2011年に書籍化しました。
2.公共団地の住棟単位のリファイニング手法の調査、研究
2011~2013年度の本研究では、事業者である東京都住宅供給公社と共同研究の連携協定を締結し、JKK東京が保有する千歳烏山住宅8号棟における住棟改善モデル事業を監修しました。リファイニング建築手法を用いた住棟単位の改善工事における基本計画および基本設計・実施設計・施工のプロセスを記録・分析・検証することで、間取りや設備水準が現在の居住ニーズに合わなくなった住宅を取り壊すことなく、子育て期や高齢期といったライフステージやライフスタイルの変化に対応した良好なストックとして再生するモデルとしてまとめ、既存ストックの再生手法モデルを構築しました。団地の再生手法に関しては、これまでも多数の研究が行われていますが、実際の事業ベースのプロジェクトを核に展開した先進的な研究です。
主に、下記の様な調査・分析・検証を行いました。
・ 階段室型住宅団地のバリアフリー改修手法の類型化、及びコスト比較
・ 複数住棟を連結したリファイニング手法の提案
・ 設備壁の導入によるプランニングの有効性
・ 団地再生における行政協議・法チェックフロー・補助金
・ 既存躯体の劣化状況と補修・補強手法
・ 内装表層上に現れた劣化と躯体劣化状況の対応関係
・ 実際に躯体補修・補強に要した人工の、積算時との比較
・ 工事記録書(補修補強チェックシート)の作成
・ 既存建物実測メニュー
これらの成果は最終的な「烏山団地リファイニングプロジェクト」として報告書にとりまとめました。
烏山住宅リファイニングプロジェクト 竣工写真>>
3.公共団地の住戸単位のリファイニング提案
多摩ニュータウンの団地郡の中でも、特に初期に建設された公共住宅では、特に設備の老朽化が深刻です。
本研究では、永山地区の都営諏訪団地をケーススタディの対象とし、水回りを中心とした段階的な改修メニューを作成し、スピーディに居住環境を改修していくための手法を提案しました。提案にあたっては、設備メーカーと改修水回りユニットの開発を行うことで、現実的なコストと工期の実現を目指しました。
4.集合住宅の課題抽出と解決手法の提案
集合住宅の老朽化や団地の過疎化に関する問題を分析し、その解決手法を7つのキーワードにもとづいて提言しました。この成果を専門家だけでなく一般の方々にも理解していただけるようにまとめ、「住む人のための建てもの再生-集合住宅/団地をよみがえらせる」として、2013年に書籍化しました。
5.既存都市のリファイニング提案
(i) 2011年度の本研究では、シャッター街化する地方の商店街(佐賀県佐賀市・福岡県久留米市・愛知県名古屋市)の再生提案を目的とし、実地調査・分析を行いました。調査結果を元に、最新のスマートテクノロジーと都市的な再編提案を融合させ、既存都市を舞台とした新しいスマートシティの提案をまとめ、「REFINING CITY×SMART CITY」として2012年に書籍化しました。
(ii) モンゴル国ウランバートル市は、グローバル化に伴う急速なライフスタイルの近代化に既存の都市構造が対応しきれておらず、様々な問題が発生しています。2012年度の本研究では、ウランバートル市の既存インフラ調査により現状の課題を分析し、その改善提案を行いました。また、新空港の建設に伴う新都市開発と連携した広域の都市連携提案も行いました。これらの成果は『リファイニングシティ×モンゴル』として2013年に書籍化しました。