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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#628 学習のための探索行為,探索行為の学習(Hacques et al. 2020)


今回ご紹介するのは,生態心理学の分野でその重要性が指摘される,探索行為(exploratory action)に関する総説論文です。スポーツ研究に関わる著者らの視点でまとめられています。

Hacques G et al. Exploring to learn and learning to explore. Psychol Res. 2020, DOI:10.1007/s00426-020-01352-x

行為を通して知覚することの重要性を主張する生態心理学にとって,探索行為は知覚のための重要な働きを担うと位置づけられています。一般に探索行為は,本質的な行為(Performatory action)に先駆けて,必要な情報を集めるための行為(information-gathering, scanning the environment)と定義されます。必要な情報とは,行為(または身体)に関係づけられた形での環境の性質などを指します。この定義には,探索行為と本質的な行為を区別して扱う意味合いがあります。

これに対してHacques氏らは,両者を分離して考える意義を認めつつも,少なくともスポーツの文脈では,探索的行為と本質的な行為を分離できないと説明しています。例えばクライミングの場面において,あるホールド(突起物)に手を伸ばしかけたものの,いったんその手を止めて,別のホールドに手を伸ばした(もしくは体勢を整えてから同じホールドに再挑戦した)とします。従来の分類であれば,手を伸ばした行為は探索行為です。しかし実際には,本質的な行為として実施したものの,届かない(またはうまく掴めない)と判断して途中でやめたのかもしれません(imcomplete Performatory action)。厳密な定義でいえば,これは探索行為とは違います。しかし,その失敗は,次の行為を有益にするための重要な情報を得るのに一役買ったはずです。このように,探索行為と本質的な行為を区別せず,行為のために必要な情報を得るための一連の行為(より広義な意味での探索行為)として等しく扱うべきだと,Hacques氏らは主張しています。

論文の後半では,探索行為を学習するという事に触れています。つまり,ある行為が上手くできない人について,少なくとも一部の原因は,探索行為が適切でないことがあることを考えています。具体的な方法として,多様な練習条件(Variable practice)を提供することで,状況に適応するための探索行為を引き出すことや,安全な環境で行為限界(maximal action boundaries)を知る機会を提供すること,初心者が安易に使ってしまう情報(行為を導く重要な情報とは違う情報)の利用価値を下げること,などが提案されています。

このセクションで提案されている様々なことは,「ワンパターンな動きから脱却できない」ことが行為の問題である場合に,問題解決の具体的方法として様々な情報を提供します。



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