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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#616 注意欠陥多動症(ADHD)児の協調運動機能が行為選択に及ぼす影響(北ほか,2020)

本日ご紹介するのは,国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の北洋輔氏らによる論文です。北氏には長年,首都大学東京において認知・発達系の様々な授業をご担当いただいて降ります。研究の議論相手として良いお付き合いをさせていただいています。

北洋輔ほか,注意欠陥多動症(ADHD)児の協調運動機能が行為選択に及ぼす影響,脳と発達 52, 5-10, 2020

ADHD児においては,歩行時のケガなど外傷を受けやすい印象があることから,その背景にある問題を特定したいというのが,北氏らの狙いでした。この研究では,協調運動の未熟さが影響して,安全とは言えない行動を選択する傾向がみられるかを検討しました。

対象者は,定型発達児51名とADAD児35名でした。協調運動機能については,国際基準の評価ツール(MABC-2)を利用して,微細運動,ボール運動,バランス能力を評価しました。行為選択能力については,一定の高さに設定されたロープに対して,ロープに触れないようにまたぐ,もしくはくぐることを求めました。このほか,ADHD児の問題である注意・抑制機能についても評価をしました。

実験の結果,協調運動能力については,特にボール運動とバランス能力について,ADHD児が低値を示すことがわかりました。また行為能力については,ADHD時のほうが,より低い高さのロープをくぐって通過しようとする傾向が見られました。つまり,またいだほうがスムーズにロープをクリアーできるにもかかわらず,くぐる行為を選択した児童が多かったという結果です。

行為選択の成績を従属変数として重回帰分析を行ったところ,有意に関係性が認められたのは注意・抑制機能の評価であり,ボール運動やバランス運動の成績ではありませんでした。したがって,行為選択が効率的・安全的でないのは,協調運動の問題ではなくむしろ注意の問題だろうと,北氏らは解釈しています。


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