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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#615 軽度認知障害高齢者(Mild Cognitive Impairment: MCIの高齢者)におけるTimed up and go testの軌道(Nishiguchi et al. 2017)

Timed up and go test(TUG)は,対象者の身体機能や移動能力を,所要時間から簡便に評価できるテストです。最近では,認知機能が低下した人を対象としたTUGの評価も多く,その所要時間には認知機能も関連していると考える傾向にあります。今回ご紹介するのは,MCIの高齢者は,TUGにおいて特徴的な歩行軌道をしめすということを報告した論文です。NTTデータ経営研究所の西口周氏が,3年前に報告した論文です。

Nishiguchi S et al. Association between mild cognitive impairment and trajectory-based spatial parameters during timed up and go test using a laser range sensor. J NeuroEng Rehab 14:78, 2017

63名の高齢者が対象者でした。このうち25名がMCIと診断されました(平均72.8±6.2歳)。レーザータイプのセンサー用いることでTUGを実施しているときの参加者の位置を同定し,歩行軌道を算出しました。

実験の結果,健常高齢者は往路・復路で対称的な軌道を描くのに対して,MCIの高齢者は非対称な軌道を描くことがわかりました。非対称となる最大の要因は往路にありました。往路が直線的になり,方向転換のためのマーカーに近い付近を通過する特徴がみられました。西口氏らは,MCIの高齢者では実行機能が低下しているため,方向転換を効率よく行うための軌道をプランニングすることができず,結果的に往路が直線的になってしまうのではないかと考察しました。

西口氏らの結果はやはり,TUGのパフォーマンスには認知機能が反映されているという最近の考えを示唆するものでした。私たちの研究では,修士2年の井上隼氏(理学療法士)が,TUGにわずかな加工を施すことで,高齢者における運動のプランニングの問題を顕在化できるのではないかという仮説を立て,検証を行ってきました。その成果は2020年度に様々な形で報告したいと考えています。


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