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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#599 軽度認知障害者に対するバーチャルリアリティを用いた認知-運動介入(Liao et al. 2019)

軽度認知障害の症状を呈する高齢者(MCI高齢者)に対して,デュアルタスク型の運動のような「認知-運動介入」の有効性が指摘されています。今回ご紹介するのは,バーチャルリアリティ(VR)を利用して認知-運動介入をおこなった研究報告報告。一部の認知特性については,実環境上でおこなった認知-運動介入よりも高い効果を示したと報告されています。

Liao YY et al. Effects of Virtual Reality-Based Physical and Cognitive Training on Executive Function and Dual-Task Gait Performance in Older Adults With Mild Cognitive Impairment: A Randomized Control Trial. Front Aging Neurosci 11, 162, 2019


34名のMCI者高齢者が,週3回×12週の介入研究に参加しました。約半数がVR介入群,残りの約半数が実環境上の介入群に割り付けられました。

VR介入群に対しては,Kinectを使ったエクササイズが提供されました。参加者はヘッドマウントディスプレイ上の映像を見ながら,太極拳の運動を行ったり,サッカーのように動きながらボールを操作するゲームや,レジ係の操作を模するゲーム(職業体験型のゲーム)を行ったりと,60分にわたるエクササイズを行いました。実環境上の介入群に対しては,有酸素系の運動や,デュアルタスク型の運動(歩きながら植物や動物などの名前を言う)などを組み合わせたエクササイズが提供されました。

介入効果を評価する指標としては,抑制機能を評価するストループ課題,実行機能を評価するトレイルメイキング課題(TMT),歩行課題(通常歩行,デュアルタスク歩行)などが用いられました。

その結果,どちらの群に参加した高齢者も,ストループ課題や通常歩行のパフォーマンスが介入後に改善することがわかりました。さらにVR介入群では,TMTの成績や認知課題を二次課題としたデュアルタスク歩行のパフォーマンスが,実環境上の介入群よりも優位に高い改善を示しました。これらの結果はいずれも,この研究で用いたVR課題の有効性を示唆しています。

著者らは,介入課題の1つである職業体験型のゲームが,実行機能を向上させることで有益であり,それがTMTの成績や認知課題を二次課題としたデュアルタスク歩行の改善に寄与したのではないかと解説しています。ゲーム性の高い課題は,繰り返し実施しても飽きにくく,継続性を保ちやすいというメリットがあります。その意味で,VRを利用した介入に効果が認められたことには意義があると思います。


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