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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

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#589 第11回スポーツ視覚研究会

8月24日(土)に東京都医師会館にて,日本スポーツ視覚研究会が参加されました。今年は参加者が80名程度と,多くの方にご参加いただきました。

研究会の歴史についてはこちらをご覧ください。

さまざまなバリエーションでプログラムが組まれる本研究会ですが,今回は4名の研究者による話題提供で構成されました。

NTTコミュニケーション基礎科学研究所の柏野牧夫氏は野球選手がバッティング時に見せる「予測的サッカード(predictive saccade)」と呼ばれる眼球運動についての研究をご紹介くださいました。予測的サッカードとは,バーターが高速のボールを眼で追う際,途中から眼球の動きがボールを追い抜くように移動する現象をいいます。牧野氏は,日本のプロ野球の一軍・二軍の選手を比較した結果,どちらの選手であっても予測的サッカードが起きるものの,一軍の選手のほうが予測的サッカードの生起が遅いことを報告しました。二軍の選手の方が目を切るのが早すぎて,バッティングの精度が落ちるということかもしれません。

大阪大学の七五三木聡氏は,卓球を想定した高速な球技系スポーツにおける視覚機能に関してご報告されました。七五三木氏自身が開発された「運動視機能評価システム」を用いて,卓球選手が運動視の機能が確かに高いというデータを示しました。さらに,高速なボールの処理を連続して対処する課題において,ターゲットを確実に捉えるためには,視線がターゲットに到達してから約10ミリ秒程度の視覚情報の利用が重要という仮説が提示されました。

慶応大学の加藤貴昭氏は,リアルなサッカーゲームのようなeSportsにおける視線探索活動に関する最近の動向について解説されました。サッカーの熟練者がサッカーゲームをしてみると,「ボールを追うのではなくパスコースやフリースペースに視線を向ける」という,実際の競技で見られるような視線特性が見られることを報告しました。

最後に私が,「移動行動の視覚運動制御」というタイトルで話題提供をしました。移動行動は多くのタスクを同時にこなす振舞いとみることができ,個々のタスクにおいて好ましい視線特性が異なることを説明しました。つまり,移動行動時は複数のタスクで求められる視線特性に折り合いをつける必要がありますが,折り合いをつけるために有益な要素として,衝突回避や物体操作時に身体近傍の知覚に対する視覚の重要性を下げることが重要であるという説明をしました。

研究会からが編集する本も近日出版予定です。研究の輪が広がるきっかけとなる本になればうれしいです。



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