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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#588 歩きスマホに関する研究事例1:状況把握(Liu et al 2015)

スマートフォンを操作しながら歩行すること(歩きスマホ)に関する研究は,この10年で多く報告されるようになりました。今回と次回でその研究事例を紹介します。いずれも歩行の専門誌「Gait & Posture」に掲載された論文です。今回は,歩きスマホ時の状況把握に着目した研究です。

Lim J et al. Dual task interference during walking: The effects of texting on situational awareness and gait stability. Gait Posture 42, 466-471, 2014

20名の若齢成人が,トレッドミル歩行をしている最中にスマートフォンを操作しました。スマートフォンでは60秒間でできるだけたくさんの単語を入力しました。トレッドミルの周囲に3つのモニターを設置し,モニター上に呈示された刺激を検出できるかに基づき,状況把握の制度を測定しました。

実験の結果,シングルタスクとして刺激を検出する場合に比べて,歩きスマホの状態では約半数の刺激(48.3%)を検出できませんでした。刺激はモニターの色の変化を検出するという簡単な条件と,ランドルト環(いわゆるCマーク)の切れ目の向きの変化を検出するという難しい条件がありました。ランドルト環の変化は,色の変化に比べて検出がとても難しいことがわかりました。

またモニターが視野の上部にある方が(正確には左上部),下部(右下部)にある場合よりも検出が難しいことがわかりました。歩きスマホの際には視線が下に落ちることを考えれば,当然の結果といえます。

歩行に関する影響は最小限でした。歩行をシングルタスクとして行う場合に比べれば,側方の揺れなどが大きくなったものの,「歩きスマホをした場合」よりも「歩きスマホをしながらモニター上の刺激を検出している場合」の方が影響が小さいなど,必ずしも認知的な負荷の高さに応じて線形に影響が出るわけではありませんでした。


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