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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

セラピスト向け情報発信ページ

#582  視覚的に引き出された方向転換動作:バーチャルリアリティ研究 (Reed-Jones et al. 2009)

バランスが不安な人にとって,方向転換動作はバランスを崩しやすい状況の一つであり,注意が必要です。今回ご紹介する研究は,眼球運動が方向転換の重要な要素であることを示唆した研究です。眼球運動の機能に不具合のある患者さんや高齢者を担当されるセラピストの方には,有意味な情報です。

Reed-Jones R et al. Visually evoked whole-body turning responses during stepping in place in a virtual environment. Gait Pos 30, 317-321, 2009

実験参加者(若齢健常者5名)は,大型スクリーンに投影される一人称的な移動のシーン(ゲーム「Half Life2」の映像)を見ながら,足踏みをすることが求められました。映像には,所々で方向転換するシーンがありました。参加者の課題は足踏みをするだけですので,方向転換そのものは求められていません。しかし参加者は方向転換動作のシーンの約60%において,わずかな体幹回旋が見られました。そして体幹回旋の際は,必ずそれに先行して転換する方向への眼球運動が見られました。

Reed-Jones氏らはこの現象について,視覚的に引き出された方向転換動作だと解釈しました。つまり,方向転換する先に視線が向けば,それが体幹の回旋を自動的に引き出していくという解釈です。

この解釈が正しいならば,方向転換動作にとって眼球運動はその導き役ともいえる役割を果たしていることになります。したがって,眼球運動の機能に不具合のある人は,方向転換動作にも支障が出る可能性があります。眼球運動を引き出す介入を行うことで,結果的に方向転換動作にも良い波及効果を促すことが期待されます。


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