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知覚・認知の視点から運動をひも解く 樋口貴広(知覚運動制御研究室)

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#573 成人の発達性協調運動障害:歩行にみられるばらつき
(Wilmut et al., 2015 ほか)

発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder)は,明確な身体・感覚・神経障害がないにも関わらず,協調運動においていわゆる不器用さが生じる症状です。一般には子供にみられる症状ですが,大人になっても症状が残存する場合もあるというのが,専門家の指摘です。

今回は,Oxford Brooks UniversityのKate Wilmut氏らのグループが報告した2つの論文を紹介します。いずれの論文においても歩行が対象ですが,動きのばらつきが大きいというのが,主たる結論となります。

Du W et al. Level walking in adults with and without developmental coordination disorder: an analysis of movement variability. Hum Mov Sci 43, 9-14, 2015
Wilmut K et al. How do I fit through that gap? Navigation through apertures in adults with and without developmental coordination disorder. Plos One 10 e0124695, 2015.

Wilmut et al. (2015)はオープンアクセスの論文ですので,どなたでも論文をダウンロードできます。

Du et al.(2015)では,平地歩行における基本的な動作特性が検討されました。DCDと診断された15名の成人(平均25.3歳,うち男性9名)が対象者でした。実験の結果,歩行速度や,歩幅,歩隔などの基本的特性には大きな問題は見られませんでした。唯一,比較対象の成人と異なったのは,そうした動作特性のばらつきです。DCDの特徴を持つ成人は,全体的に動作のばらつきが大きくなりました。

Du氏らは,歩行中のばらつきの大きさは,高齢者を対象とした研究では転倒危険性の高さを示しうるということを根拠に,転倒やつまずきにつながる原因になりうるのではないかと指摘しました。

Wilmut et al. (2015)では,狭い隙間の通過行動が検討されました。その結果,やはり歩行中の体幹の動揺が大きいことを確認しました。ただし,隙間を通過する際の衝突回避行動(体幹の回旋)は,比較対象の成人よりも大きな角度で遂行することが分かりました。この結果から,Wilmut氏は,確かにばらつきは大きいものの,それでも接触が回避できるようにオーバーリアクションをしているのではないかと解釈しました。

2つの研究結果を全体的に見れば,歩行については,ボール操作などにみられる不器用さほど顕著ではないように思います。少なくともWilmut氏の結論に基づけば,本人たちがそれに適応できる程度のばらつきです。これが他の協調動作の障害とどの程度関連するのかについては,今後の検討を待ちたいと思います。


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