セラピストにむけた情報発信



脳卒中片麻痺者の180度方向転換動作:自発的選択の観察
(Barrois et al. 2017)




2019年2月12日
今回ご紹介するのは,脳卒中片麻痺者の方向転換動作(以下,ターン動作)に関する研究です。どのようにターンするかを研究者側が指定せず,対象者の自発的な選択に任せています。その上で,選択した動作の特性を記述した点に特徴があります。

Barrois RP et al. Observational Study of 180 degrees Turning Strategies Using Inertial Measurement Units and Fall Risk in Poststroke Hemiparetic Patients. Front Neurol 8, 194,2017

脳卒中片麻痺者にとって,ターン動作中のバランス維持は困難です。ターン動作時には一足に長く荷重する時間が発生するため,麻痺側への荷重が難しい片麻痺者にとっては何らかの対処が必要だからです。対処法としては,ターンを1回のステップで行うのではなく(いわゆるピボット動作),小刻みにステップを踏むことで,1足への荷重の時間を短くする方法があります。実際,転倒危険性が高い脳卒中片麻痺者(つまり何らかの理由でバランス維持が難しい片麻痺者)ほど,ステップ数が多いという指摘があります。つまり,麻痺側への荷重が困難でバランス維持が難しい人ほど,ターン動作は困難と言えます。

Barrois氏らは,180度方向転換動作を対象に,ターン動作の特性を検討しました。冒頭でも述べたように,この研究の最大の特徴は,どのようにターンするかを参加者の自主性に任せた点になります。これにより,自然に選択したターン動作が転倒危険性の高い動作になっていないかをチェックできます。

このほか,慣性センサを用いて動作を分析している点も,研究の特徴と言えます。慣性センサは三次元動作解析と違って安価・簡便かつ持続的に測定できるという点で,臨床研究への応用可能性が高い装置です。実際,以前ご紹介した中村高仁氏の研究でも,慣性センサが用いられていました

実験には,17名の右麻痺者と20名の左麻痺者,ならびに15名の健常者(コントロール)が参加しました。ターンのパターンは,「麻痺側・非麻痺側のどちら側にターンするか」と「ターン時の軸足は麻痺側・非麻痺側のどちらか」の組み合わせにより,4つに分類されます。Barrois氏らは特に,バランス維持が力学的に最も困難な,「麻痺側を軸足にして麻痺側にターンする」パターン(先行研究に従って,パターン4と分類)の頻度に着目しました。

実験の結果,上記パターン4の動作を選択したのは,左麻痺者が圧倒的に多く,参加者の全体の85%となりました。これは,右麻痺者が29%しか選択していないことを考えると,大きな違いでした。これ以外の全体的なターンの性質(例えばターンに必要なステップ数)などは,右麻痺者と左麻痺者で大きく変わりありませんでした。

著者らは,左麻痺者(すなわち大脳右半球損傷者)が転倒危険性の高いターン動作を選択している理由として,病態失認や身体失認の影響で,パターン4のターンの危険性を認知できていないのではないかと解釈しています。

Barroisらの研究は,対象者の自発的に選択した動作の観察に意義があることを示したという点で有用な研究です。


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