セラピストにむけた情報発信



【成果報告】歩行中のダイナミックタッチ(Watanabe et al. in press)




2019年1月21日
樋口(研)スタッフの修士2年生,渡邊諒氏の修士論文のデータが,国際誌Journal of Motor Behaviorにアクセプトされました。長年一緒に仕事をしている,イリノイ州立大学のJeffrey Wagman氏との共同研究です。今回はその内容を報告いたします。

Watanabe R, Wagman, JB, Higuchi T. Dynamic touch by hand and head during walking: protective behavior for the head? J Mot Behav.in press

ダイナミックタッチとは,物体を把持した際に感じる,いわば“抵抗感”の情報を利用して,物体の特性を知覚するプロセスです。同じ長さの棒でも,棒の先端に重りをつけ,目隠しして振ってもらうと,実際よりも長い棒だと知覚されます。つまり重りをつけたことで生じる抵抗感の大きさは,長さの知覚に利用されることを示しています。

渡邊氏は,このダイナミックタッチのパラダイムを使って,歩行中であってもダイナミックタッチを利用して物体を知覚していることを示しました。通常ダイナミックタッチの研究では,棒の長さそれ自体を表現してもらう道具を用意します。しかし歩行中はこうした道具を使って棒の長さを表現してもらうことはできません。そこで渡邊氏は,歩行中に仮想の垂線を設定し,その垂線に棒の先端を一致するように歩いて通り抜けてもらう実験方法を考案しました。その結果,重りをつけた状況では,垂線から遠ざかるように歩きました。この結果は,重りによって棒を長く知覚した可能性を示すものであり,ダイナミックタッチの関与を示唆しています。

この研究は,Wagman氏の最近のダイナミックタッチ研究から着想を得ました(Wagman JB Langley MD, Higuchi T. Experimental Brain Research 235, 153-167, 2017)。Wagman氏の研究では,ダイナミックタッチが手だけでなく,頭部でも成立することが報告されています。頭部でのダイナミックタッチは歩行中でも成立するかを検討しました。

その結果,確かに頭部でもダイナミックが成立しました。すなわち重りをつけると,棒が長く知覚されていることを示す行動が見られました。普段,頭部から棒が飛び出た状態などほどんど経験しませんが,それでもダイナミックタッチは成立するようです。ただし頭部では過剰に垂線から遠ざかる傾向が見られました。これは頭部を守ろうとする特有な行動かもしれないと解釈しました。

修士課程の在籍中に国際誌に論文を投稿するには,並々ならぬ努力が必要です。日々コツコツと研究を積み重ね,国際誌への論文出版を達成したことは,指導教官としても誇らしく思います。


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