セラピストにむけた情報発信



歩行中の障害物回避:サイズ情報と位置の知覚は時間特性が異なる
(Diaz et al. 2018)




2019年1月15日
本日ご紹介するのは,障害物回避に関する研究報告です。障害物の位置情報に比べて,サイズの情報はいつ知覚しても柔軟に対応できることを報告しています。この分野をリードしているBrett Fajen氏が関わる研究です。

Diaz GJ et al. The pickup of visual information about size and location during approach to an obstacle. PLoS One 13, e0192044, 2018

この研究を行うに至る背景には,障害物の知覚に対する一見矛盾した2つの理解があります。①障害物の知覚は障害物到達の数歩前に終わっているという理解と,②障害物をまたぐ直前までオンラインの情報が必要という理解です。

①については,そもそも障害物に視線が向いているのが数歩前までであることや,数歩前に視覚情報を制限しても障害物回避は可能であること,などが根拠になっています。②については,たとえ障害物自体に視線が向けられてなくとも,下方周辺視野から得られるオンラインの視覚情報が障害物回避には重要であることが,主張のよりどころです。

Diaz氏らは,こうした矛盾は,障害物のサイズと位置の知覚時間的特性の違いがあり,サイズの知覚が①に,そして位置の知覚が②に対応しているのではないかと考えました。そこでDiaz氏らは,ヘッドマウントディスプレイで投影したバーチャルリアリティ(VR)環境の歩行実験でこの問題を立証しました。15名の若齢成人を対象に2つの実験を行いました。

第1実験では,障害物が登場する位置だけを示しておき,サイズの情報がいつ出るかを独立変数で操作しました。実験の結果,サイズの位置が遠くだけで見えても(障害物の4歩前),近くだけで見えても(1歩前),足を上げる高さには大きな影響はありませんでした。この結果は,サイズの知覚は時間的に柔軟に対応できることを示唆しています。

第2実験では,障害物の登場する位置を独立変数で操作しました。その結果,障害物が見える位置がベストなタイミング(障害物の直前に後続脚を設置するタイミング)で視覚が見えないと,またぐ方略に影響を与えることが分かりました。この結果は,障害物の位置の知覚については最適なタイミングがあることを示しています。

Diaz氏らの研究は,障害物回避のための視覚の役割についての理解を前進させる成果です。


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