セラピストにむけた情報発信



アルペンスキー競技選手の視線行動 (Decroix et al. 2017)




2018年10月22日
今回ご紹介するのは,傾斜のあるコースを高速で滑走するアルペンスキー選手の視線行動を測定した研究です。熟練した選手ほど先の旗門を見ていることを報告しています。

Expert - Non-expert differences in visual behaviour during alpine slalom skiing. Hum Mov Sci 55, 229-239, 2017

対象となったのは回転(スラローム)種目の選手です。5名の熟練者(1名のプロを含む)と,14名の非熟練者(スキーの経験者であるが回転種目の経験はない)です。

回転種目の場合,アルペンの中でも設置される旗門数が多いため,スピードだけでなく,細かいカーブを素早く完璧に曲がる技術も要求されます。

視線行動を解析した結果,熟練者は1つ先の旗門(2旗門目)に視線を向けていることがわかりました。これに対して非熟練者は,これから通過する旗門(斜面)もしくはその少し手前を見ていました。この結果から,熟練者の方がより遠くの情報を見ていること,また,遠くにある意味のある情報(旗門)を見ていることから,次の行動計画に必要な情報に視線を向けていると言えます。

これに対して非熟練者は,今から向かう旗門,すなわち“今ここ”の情報に視線を向けていることがわかります。次の行動予測というよりは,現在の運動の実行を確実に行うための視線行動と言えます。

回転種目の“非熟練者”といっても,参加者はスキーそのものに対しては十分な経験を持っているスキーヤーです。その影響もあってか,旗門に対してターンをし始めるタイミングや,旗門を見始めるタイミングは熟練者と変わりませんでした。但し,滑走のスピードが熟練者と非熟練者で圧倒的に違うことから,タイミングが両者で同じということは,熟練者の方がより遠くから旗門を見ているということになります。

なお,熟練者であっても3旗門目を見ることはありませんでした。予測的な視線行動といっても,ひたすら遠くに視線を向けるのではなく,行動計画にリンクした適切な距離(または時間)に視線が向けられていると言えます。


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