セラピストにむけた情報発信



高齢者における“その場足踏み”の規則性:デュアルタスクの影響
(Dalton et al. 2016)




2018年7月17日
本日ご紹介するのは,その場足踏みをバランス課題として採用した研究です。

Dalton C et al. Executive function is necessary for the regulation of the stepping activity when stepping in place in older adults. Aging Clin Exp Res 28 909-915, 2016

その場足踏み課題は,歩行と立位バランスの中間に位置するバランス課題です。ステップを踏むという意味で歩行的要素を持ちます。一方,前進移動時のバランス維持の難しさがないため,歩行に比べればバランスが維持しやすい課題です。歩行と違って狭い測定環境でも実現可能なため,訪問リハの際など,様々な場面で導入しやすい課題ともいえます。

今回の研究では,認知課題を二次課題としたのデュアルタスク状況下の足踏みの特性を測定しました。15名の高齢者,ならびに14名の若齢者が参加しました。二次課題として,カテゴリーに合うモノの名前を短時間で多く答える課題(意味流暢性課題,category fluency task),および文字の色を素早く読み上げる課題(ストループ課題)が採用されました。

足踏みのパフォーマンスを見る指標は大別して,足踏みの規則性を評価する指標と,足踏みの速さに関する指標の2種類がありました。これらの指標は,歩行課題を用いた場合に高齢者においてみられるデュアルタスクの影響を考慮して採用されています。デュアルタスク状況下では,一般に転倒危険性の高い高齢者ほど,歩幅のばらつきや歩行速度の低下がみられます。

実験の結果,デュアルタスクの影響は足踏みの規則性についてのみ見られました。高齢者に対するデュアルタスク状況下では規則性が低くなりました。この現象は歩行で見られる現象と似ています。

これに対して,デュアルタスク状況でも足踏みの速さが低下することはありませんでした。著者らはこの結果について,足踏み課題は前進移動に伴うバランス維持の難しさがないことから,デュアルタスク状況下であってもスピードを下げる必要がないのではないかと考察しています。

なお,二次課題の違いによって結果に若干の違いが見られました。意味流暢性課題を用いた時の方が,足踏み課題への影響が大きくでました。著者らはこの結果の解釈にあたり,ストループ課題の刺激提示方法に着目しました。ストループ課題では,刺激がモニター上に呈示されました。つまり,参加者は課題遂行中モニターに視線を固定することになります。著者らは,この視線固定がバランス維持につながったため,課題の違いが出たのではないかと推察しました。2つの課題とも,実行機能(executive function)を用いる課題としては共通であり,本質的な影響は同じであると,著者らは考えています。




(メインページへ戻る)