セラピストにむけた情報発信



内的・外的焦点化が高齢者の適応的歩行調整に及ぼす影響
(de Melker Worms et al. 2017)




2018年4月23日
転倒危険性が高い高齢者は,歩行を自動的(潜在的)に調整するのが難しくなり,歩幅などを意識的にコントロールする場合も出てきます。身体の局所に注意を向けすぎることの弊害(内的焦点化)に関心がある研究者や臨床家は,そうした歩行の意識的なコントロールが,かえってバランス維持を難しくしているのではないかと考えています。

本日ご紹介する研究は,状況に応じた歩行の適応的調整が,内的焦点化や外的焦点化(環境など,身体外に注意を向けること)の影響を受けるかについて検討した研究です。

de Melker Worms, J. L. A. 2017 Effects of attentional focus on walking stability in elderly. Gait Posture 55, 94-99, 2017

28名の高齢者を対象に,スプリットベルト式のトレッドミル(左右のベルトが独立に制御することで左右の歩行ステップを変えられるトレッドミル)を使って研究をしました。実環境を歩いているような感覚を増幅させるため,大型スクリーンを用いたVRの風景を,歩行に連動させて動かしました。

適応的歩行調整を見るため,歩行中のランダムなタイミングで利き足のベルトに外乱が加わりました。具体的には,利き足がベルトを離れたタイミングで(toe-off),ベルトの動きが停止しました。これにより,利き足が接地した際に地面が動かないため(つまり,本来ならば設置した脚は後ろへ移動するはずなのに動かないため),足の挙動としては滑りやすい床の上で利き足がスリップしたような状態になります。この外乱に対する応答としての歩幅等の変化を,適応的歩行調整として検討しました。

内的・外的焦点化の操作は教示で行いました。内的焦点化条件では足の動きに集中するよう教示しました。外的焦点化条件ではトレッドミルの動きに集中するよう教示しました。

実験の結果,内的焦点化条件・外的焦点化条件の間に有意な違いは見つかりませんでした。さらに,高齢者を転倒経験の有無に分け,影響の違いについても検討しましたが,やはり内的・外的注意の影響は見られませんでした。

著者らはこの結果について,外的焦点化の対象が床の動きではなく視環境の変化の方がよかったかもしれないとコメントしています。また,参加者がトレッドミルの外乱に対して比較的早期に慣れていたことから(簡単だったため),注意を向け方という認知的な影響が見づらかった可能性もあり,もう少し難しい課題で再検討すべきだ,としています。

内的・外的焦点化は,トピックとしては大変有意義な一方,実験的な操作は教示のみに依存する,という制約があります。実験者としてはなかなか扱いにくいトピックではあります。


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