セラピストにむけた情報発信



脳卒中者の歩行転換動作:大脳基底核損傷の影響
(Hollands et al. 2010)




2018年4月16日
今回ご紹介するのは,脳卒中片麻痺者の方向転換動作に関する研究です。類似する研究とはやや異なる結果が得られており,それをどう解釈するのかがポイントになっている研究です。その中で見出された一つの成果が,大脳基底核損傷がもたらす影響です。

Hollands KL 2010 Stroke-related differences in axial body segment coordination during preplanned and reactive changes in walking direction. Exp Brain Res 202 591-604, 2010

14名の脳卒中片麻痺者が参加しました。参加者は,6mの歩行路を快適速度で歩行しました。何割かの試行において,45度の方向転換動作が求められました。方向転換をすることが歩行開始前に教えられる場合(pre-planned)と,歩行中にしか教えられない場合(reactive)がありました。両者を比較することで,急に方向転換が求められた場合の対応力について調査しました。

重要なデータは,頭部・胸部・骨盤の回旋タイミングに関するデータでした。通常,回旋に時間的余裕がある場合には,頭部⇒胸部⇒骨盤の順序でスムーズに回旋していきます。まるで頭部の回旋が体幹の回旋を引き出すかのような動作です。類似する研究では(Lamontagne et al. 2009),麻痺の程度が強いほど,各部位の回旋が同タイミングで発生することが報告されました。いわば,身体全体を固めて動いているかのような現象です。

これに対して,Hollandsらの実験では,pre-plannedとreactiveの両条件において,脳卒中片麻痺者が頭部⇒胸部⇒骨盤の順序でスムーズに回旋することがわかりました。Lamontagne et al. 2009との違いについては,方向転換の角度が両者で違うことや,発症後からの日数がHollandsらの研究の方が長いこと(2年vs 1年)が影響しているのではないかと考察しています。

この研究で注目されたのが,大脳基底核に損傷がみられる患者の結果でした。14名の対象者のうち,基底核に損傷が見られた患者については,非麻痺側に(つまり損傷側に)方向転換する動作が遅いことがわかりました。

この結果について著者らは,基底核が方向転換動作のコントロールに重要な役割を果たしていることを示唆していると主張しました。基底核の機能に問題があるとされるパーキンソン病患者においても,方向転換動作に問題があるという先行研究があります。その研究によれば,パーキンソン病患者はドーパミンの活動が阻害されている側への方向転換が苦手であることが報告されています。Hollandsらは,この現象が,脳損傷患者における非麻痺側(つまり損傷側)への方向転換動作が苦手である現象と同じであり,大脳基底核が方向転換動作に重要な役割を果たしているのではないかと主張しています。





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