セラピストにむけた情報発信



小脳性運動失調者の方向転換動作(Mari et al. 2012)




2018年2月26日
本日ご紹介するのは,小脳性運動失調者が歩行中に歩行転換を行う際の動作について報告をした,イタリアの研究です。

Mari, S. Turning strategies in patients with cerebellar ataxia. Exp Brain Res 222, 65-75, 2012

小脳性運動失調者は,歩行中にふらつきがあることや,ワイドベースをとる(歩行中の足部と足部の間幅が広い)などの特徴があります。

方向転換時には,直進方向の動きを減速させつつ,進みたい方向へ頭部や体幹部を回旋させながら,全身のバランスを維持し続けることが求められます。小脳性運動失調者の特徴を考えると,こうした方向転換動作にも様々な支障があることが予想されます。

10名の小脳性運動失調者と,年齢をそろえた対照者10名が実験に参加しました。実験では,転換方向(左右)×方向転換の大きさ(30度もしくは90度)の4条件での方向転換動作を,三次元動作解析を用いて測定しました。実験では方向転換時の最初のステップが必ず左足になるようにコントロールされています。このため,左側の方向転換を同側(Ipsilateral)方向転換,右側の方向転換を対側(Contralateral)方向転換と呼びました。

なお,参加者は歩行開始前にどの方向に進むべきかを知らされた条件で方向転換をしています。つまり,予期的に動作を計画する十分な時間がありました。

実験の結果,次のような特徴が見られました。
  • 小脳性運動失調者は,方向転換の角度が大きい90度条件の成功率が低い(70 vs 90 %)
  • 小脳性運動失調者は,ワイドベースを保持しながら方向転換しようとする
  • 対側方向のターンの際,足のクロスオーバー(spin turn)が起こらないよう,複数のステップで方向転換をしようとする(multiple steps)
  • これらの動作特徴があるにもかかわらず,方向転換の所要時間は対照者と変わらない
方向転換においては,最初のステップをどこにつくかということが重要になります。小脳性運動失調者は,ワイドベースを保持しながら方向転換しようとするため,この1歩目の修正が上手くいかず,結果的に大きな角度で曲がることに対応できないと,著者らは解説しています。

方向転換の所要時間については,対象者と比べて遜色がないことから,時間的な側面についてはスムーズでであったということもできます。他の先行知見によれば,パーキンソン病患者においては,方向転換動作がとてもスローになることが指摘されています。このことから著者らは,時間的な制御については基底核ベースでおこなわれているため,小脳性運動失調者では大きな影響がなかったのではないか,と考察しています。

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