セラピストにむけた情報発信



サッカー国際審判,西村雄一氏との講演(Football groove)その1




2018年1月22日
1月20日に,サッカー関連のイベント“football groove”にて,サッカー国際審判,西村雄一氏とご一緒させていただく機会を頂戴しました。西村氏はワールドカップの開幕戦でも笛を吹かれたことでも有名です。

初日のイベントとして,私たち2名が「状況判断」をキーワードとして話題提供をしました。国際舞台で活躍される実践的立場と,教科書的知識をベースとした研究の立場から,それぞれ状況判断について話題提供をするという企画でした。

このコーナーでは2回にわけてイベントの様子をご紹介します。今回は,西村氏の講演の概要をお話しします。

西村氏の話題は,大きく2部構成でした。前半は,審判に関する概略的なご説明,後半は西村氏自身が実践されていることのご説明です。

日本でサッカーの審判資格を持つ人は,26万人程度です。その中で,Jリーグで審判ができる1級審判員は166人,そのうち審判だけで生計を立てているプロフェッショナルは13人ということです。いかに狭き門かということがわかります。

西村氏によれば,90分の試合ではレフリーも10-12キロ走るとのことです。どうやら,試合の質によって走行距離が影響されるようです。非常に質の高いゲームでは,パスミスが少ないためにハーフコートにとどまる時間が長く,走行距離が少なくなります。これに対して,ミスの多い試合では攻守が頻繁に切り替わるため,結果的に審判の走る距離も長くなります。これだけ多くの距離を走りながら,冷静にジャッジをし続けるためには,相当な身体の鍛錬が必要なのだということがうかがえます。

後半の実践的な話題として,まず初めに,普段のトレーニングの一端をお話しくださいました。

実演いただいたのは,感覚と運動に負荷をかけた状態でのトレーニングです。バランスをとるのが難しい立位姿勢条件の下でボールをキャッチするデモがありました。ストロボ的な視覚条件によって,見ることに対する負荷をかけながら行います。こうした状況でのキャッチに慣れることで,平常でのキャッチが楽になるとのことです。こうした訓練を通して,試合場面で“状況で見る”ことにも一定の波及効果を狙っています。

次に,試合場面で正しく判断するための心がけについてお話しくださいました。以下が,その一端です。

  • 「正しい判定には正しいポジショニングで見ることが必要。正しいポジショニングのために,“12人目のオフェンス”のような感覚で攻撃側の意図を読んでいる」
  • 「攻撃側の意図を読む際は,パスの出し手を見るのではなく,パスの受け手を見る(うまく崩せた人のところにボールが出るから)」
  • 「ファールを判定するとき,ファールをする人だけでなく,ファールをされる人の状況にもフォーカスを当ててみている。」
  • 「ファールの有無及びその程度を判断する際,いくつかのチェックポイントがあるが,それらを減点法で見ている(退場にすべきファールを想定した場合,そこまでに至らないチェック項目の有無や個数で判断する)」

非常に複雑な状況の中で,瞬間的な判断をくだすのはとても困難です。西村氏がこれまで多くの経験や訓練を通して,どのように判断のプロセスを洗練されていったのかというお話は,研究にも様々なヒントを当たえるものでした。

次回は,私の講演内容についてご紹介します。

 
 
 


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