セラピストにむけた情報発信



脳卒中者の衝突回避の秘訣:隙間通過行動の観察から
 (Muroi et al. 2017)




2017年1月23日
脳卒中者の衝突回避につながる成果を,オンライン誌PLOSONEで発表いたしました。オープンアクセスの雑誌ですので,どなたでも無料で論文をダウンロードできます。今回はその概要について説明します。本学社会人院生で,亀田メディカルセンターに勤務する理学療法士,室井大佑氏を筆頭著者とする論文です。

Muroi D, Hiroi Y, Koshiba T,Suzuki Y, Kawaki M, Higuchi T. Walking through apertures in individuals with stroke. PLOS ONE, in press

脳卒中者23人と年齢・性別を揃えた健常者23人に対象とした実験です。実験課題は,2つのスクリーンで作られた狭い隙間を,接触せずに通り抜けるというものでした。三次元動作解析カメラ8台を使って,隙間通過の様子を詳細に解析しました。脳卒中者が狭い隙間を歩いて通り抜ける際の衝突回避方略を,三次元動作解析装置により分析しました。

実験の結果,衝突は一部の脳卒中者で頻繁に見られ,健常者ではほとんど見られませんでした。また予想されたように,脳卒中者の衝突は主として,麻痺側の身体で起こっていました。

脳卒中者を転倒歴の有無で分類した結果,スクリーンとの衝突率は,転倒歴のある脳卒中者の衝突率が統計的に有意に高くなることがわかりました。この結果は,衝突回避能力と日常の転倒危険性に関連性があることを示しています。

狭い隙間を通り抜ける際,接触を回避するために体幹を回旋する場合があります。そこで,体幹回旋の有無,および回旋時に最初に隙間を通過するのが麻痺側か),それとも非麻痺側かで分類して衝突の特徴を比較しました。

その結果,大変興味深いことに,麻痺側を前方に出して通過した場合には,衝突率が高くないことがわかりました。この結果は,麻痺側から隙間に侵入することで,障害物との衝突を回避しやすくなる可能性を示しています。

麻痺側を前方に出して通過した場合,麻痺側が下方周辺視野に入るため,視覚的に位置を確認できるという利点があります。また体幹を回旋して隙間を通過する際は,前方に出した身体と,隙間を形作る障害物との間にできる空間マージンを計算していることがわかっている(Higuchi et al. 2012 PLOS ONE)。麻痺側を前方に出せば,空間マージンの計算のために注意が向きやすく,接触しにくくなる可能性があります。今後,こうした考察の妥当性を検証する実験を行っていく予定です。

室井氏は5年以上にわたり,病院がある鴨川から,大学がある八王子まで片道三時間半もかけて通ってくれています。室井氏が筆頭著者として論文を提出するのは,本年度2度目となります。

本研究は,亀田メディカルセンター様勤務の理学療法士さんに助けていただき実現しました(共著者:廣居康博氏、小柴輝晃氏、鈴木洋平氏、川木雅裕氏。その他協力者:齋藤祐太郎氏、堂面彩加氏、大寺祥佑氏、吉本隆彦氏、佐藤大地氏、清水一生氏、皆川陽美氏,比護文也氏)。ここに記して謝意を表します。

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