セラピストにむけた情報発信



たった一日の手の拘束でも身体表象は可塑的に変容する?
(Meugnot et al. 2014))




2015年11月6日
上肢を骨折してギブス固定した状態が長く続くと,筋肉が衰えるだけでなく,上肢を動かすための認知神経機構にも影響がみられ,可塑的な変化が起きると考えられています。あまりに長期に動かさないでいると,いわば「脳が運動の仕方を忘れる」といった状態になるのです。

今回ご紹介する論文は,手首を24時間拘束しただけでも,こうした認知神経機構の変容がわずかながらに生じる可能性を指摘したものです。

Meugnot et al. The embodied nature of motor imagery processes highlighted by short-term limb immobilization. Exp Psychol 61, 180-186, 2014

実験では大学生を対象に,手首と指三本(人差し指,中指,薬指)の動きを固定する装具(Donjoy, Comfort digit)を24時間装着した前後で,手刺激のメンタルローテーション課題の成績がどのように変化するかを検討しました。20人の参加者のうち,半数に装具固定を行いました。メンタルローテーション課題に対する影響が手刺激だけに起こるのかをチェックするため,物体刺激に対するメンタルローテーション課題も合わせて行いました。

参加者たちは全員,24時間の間を空けてメンタルローテーション課題を2回実施しましたので,総じて2度目の成績が良くなります(つまり,練習効果により反応時間が早くなる)。ところが手を拘束した参加者の場合,手刺激に対するメンタルローテーション課題の反応時間は,統計的に有意には短縮しませんでした。

著者らはこの結果を,手の拘束がもたらした影響だと結論しました。確かに,物体に対するメンタルローテーション課題では拘束後の反応時間は短縮しています(つまり,練習効果が見られた)ので,この解釈は妥当とも言えます。

この研究では,メンタルローテーション課題を実施している最中には手を拘束していません。したがって,ここで見られた現象は,現在の身体の状況をオンラインに表象した結果ではなく,24時間腕を拘束したことによる残効として起こった現象です。この点が,他の研究と違う新規性の高いデータです。
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