研究成果 2013.04.02更新

論文発表 2013.04.02更新


1. 送信系の開発
高出力送信レーザーとして当初は、PPMgSLT擬似位相整合(QPM: Quasi Phase Matching)素子を用いてリング型共振器を構成し、共振器長制御により必要な波長を選択的に発生させていた。この方式では、発振波長をCO2の吸収線に同調するために精密な制御が必要で、システムが複雑となり波長切り替え時に共振器制御が不安定になる弱点があった。このため、PPMgSLT-QPM素子の利得が高いことに着目し、共振器を使用しないより単純な方式として、QPM-光パラメトリック発生器(Optical Parametric Generator : OPG)方式のレーザーを新たに考案した。OPGは、CO2セルを使って吸収スペクトルの中心に波長同調したDFBレーザーを注入することにより狭帯域化している。励起用のNd:YAGレーザーは、波長532 nmのヨウ素吸収スペクトルを利用した波長安定化Nd:YAGレーザーを用いたインジェクションシーダーにより狭帯域化し、QPM素子は±0.01℃で温度制御している。図1にOPGの波長安定度を示す。On-lineである1572.0178nmに対し、波長計(Highfinesse WS7-IR)の絶対精度0.15 pm(40 MHz)以下の安定度を示した。この安定度はCO2密度観測を行ううえで十分な安定度である。

高出力化を図るため、図2に示すようにOPGの後段にOPAを2段追加したシステムを開発した。OPAのQPM素子はOPG同様に±0.01℃で温度制御している。最大パルスエネルギーは20.5mJ @ 1572 nm あり、平均パワーは10.25Wで、目標を達成した。

波長同調システムとして図3に示すCO2セル透過光と参照光の強度比を一定とする波長制御システムを開発した。図4に示すように、14時間にわたり吸収線ピークにおいて4.0MHzrms、気圧不動点において1.8MHzrmsの安定度が得られ、高精度で長時間の波長同調が確認され、目標を達成した。

図1 OPG/OPAの波長安定度図2 1.6μm OPG/OPA システムのブロック図

図3 CO2セル透過光と参照光の強度比を一定とする波長制御システム図4 CO2 セル透過光と参照光の強度比を最小とする波長制御方式のLD 同調精度:(左)吸収ピーク波長、(右)気圧不動点

2. 受信系の開発
昼間観測のために図5に示す透過帯域が狭く透過率の高い特性を持った狭帯域フィルターを入手した。実際に観測に用いた結果、太陽南中時でも背景光が十分小さくなることが確認され、昼間のCO2観測が可能であることが確認された。

CO2、気温の鉛直測定のための大口径受信望遠鏡として、コンテナへの積み込みを考慮した鏡筒が短い口径60cmの反射望遠鏡を設計し購入した。また、水平分布観測のためのスキャニング型受信部の製作を行った。図6に口径60cm受信望遠鏡とスキャニング機構の外観写真を示す。

風測定のためにFBGフィルターを用いた受信部を開発した。図7に受信部のブロック図とFBGフィルターの透過特性を示す。風測定はスキャニング機構を用い、斜めにレーザーを打ち出すことにより視線方向の風速が測定可能になる。

図5 狭帯域干渉フィルターの特性とレーザー波長の関係図6 口径60cm受信望遠鏡(左)とスキャニング機構(右)の外観

図7 FBGフィルターを用いた風測定部のブロック図(左)とFBGの透過特性(右)ム

3. システムインテグレーション
送信系と受信系をインテグレーションし、多要素(CO2濃度、気温、風向・風速)の鉛直分布同時観測可能なライダーを開発した。気温観測に関しては、CO2濃度測定に用いている2波長λon、λoffに、気圧不動点λTを追加した図8に示す3波長システムに拡張した。低高度領域と高高度領域を一つの受信系で測定するのはダイナミックレンジの関係から困難であるため、低高度領域用の小型望遠鏡と、高高度領域用の大口径望遠鏡を用いて同時受信することにより測定高度領域を拡大した。また気温の同時観測により従来の地上気象データを用いて求めていたCO2濃度に比べて測定精度が向上する繰り返し演算アルゴリズムを開発した。

さらにこのライダーシステムを、図9に示す外形寸法長さ6.1m、幅2.4m、高さ2.6mの移動観測可能なコンテナ(トレーラ)の内部に配置した。

図10左に昼間のCO2の高度プロファイルを示す。高度2km以下は低高度受信系で高度分解能500m、高度2km以上は高高度受信系で高度分解能1000m、時間分解能は約1時間である。更に夜間については、図10右に示すように高度8kmまでの観測が可能となった。

図8 CO2 DIAL3波長システムのブロック図図9 移動観測用コンテナ(トレーラ)の外観(左)と内部(右)の写真

図10  CO2の高度プロファイル観測例(左)昼間、(右)夜間図

4. 精度検証
ライダーによるCO2濃度の測定精度を3つの方法で検証した。はじめに、ビルの屋上にCO2分析器(LICOR LI-7500)を設置し同時比較観測を行った。結果を図11に示す。比較高度は完全には一致していないが、両者は同じ時間変化を示しており、ライダーデータの妥当性が検証された。

次に、JAXA及び国立環境研究所がGOSAT衛星の校正実験として行った航空機サンプル観測の際に地上から同時測定を行い、高度3kmでのCO2濃度の比較を行った、その結果を表1に示す。両者は誤差内で一致することが確認出来た。

さらに、首都大学東京キャンパス内グランドにおいて、従来型のCO2分析器を係留気球を使って上空に浮揚させ、ライダーで斜め観測を行いCO2濃度検証実験を行った。検証実験の様子を図12に、比較結果を図13に示す。両者は誤差内で一致することが確認出来た。

風観測に関しては、地上に設置した超音波風速計とライダーによるレーザー視線方向の風速を比較した。同時比較観測結果を図14に示す。両者は0.3m/sの精度で一致していることが確認出来た。

図11 ビルの屋上に設置したCO2分析器とライダーとの同時比較観測結果図12 ガス分析器を搭載した係留気球とその浮揚状態の写真

表1 航空機サンプル観測とライダー鉛直観測結果の比較

 
図13 ライダー斜め観測と係留気球搭載ガス分析器の比較観測結果図図14 超音波風速計とライダーによる風観測の比較結果