トップページ > 北山研ヒストリー> 北山研での研究:2007年

 この年、卒論生だった林秀樹くんが大学院に進学した。新M1は彼ひとりである。卒論生には相も変わらず人気がなくて、第一志望で来てくれたのは矢島龍人くんだけだったように記憶する。第二次募集で戸上結美子さんと溝下麻美さんとが来てくれたが二人とも研究室によく馴染んだし、どちらも実験を担当してくれてよかったと思っている。なおこの年から三年間はどういうわけか卒論生に女性が多く集まった。

 矢島龍人くんは田島祐之さんをチーフとするPRC立体柱梁接合部の実験を卒論として担当した。彼は卒論生の頃には女性パワーに押され気味のように見えた。しかしその後大学院に進学してからは急激に成長して(って、もちろん本人が勉強して努力した賜物だろうが…)、我が社のなかで大きな存在感を示すようになったのは嬉しいことだった。大学院修了後も矢島くんにはわたくしが主査を務める学会のWGに委員として参加してもらっている(2016年5月現在)。

 2007年の後半からは中国・青島からの留学生である王磊さんが研究生として加わった。彼は姜柱さんの紹介で我が社にやってきたひとで、人柄や基礎学力については姜柱さんのお墨付きがあったため、安心して受け入れることができた。

 芝浦工大・岸田研究室からは松本玄徳くんが卒論研究のために我が社にやって来た。松本くんには林くんをチーフとする立体骨組による連層鉄骨ブレース実験に溝下さんとともに取り組んでもらった。

 2007年度のスタッフは以下の通りである。

COE研究員 森田 真司(もりた しんじ)
D3 田島 祐之(たじま ゆうじ)
M2 中沼 弘貴(なかぬま ひろき)
   宮崎裕ノ介(みやざき ひろのすけ)
   足立 理恵(あだち りえ、プロジェクト研究コース所属)
M1 林  秀樹(はやし ひでき)
卒論 矢島 龍人(やじま りゅうと)
   溝下 麻美(みぞした あさみ)
   戸上 結美子(とがみ ゆみこ)
   松本 玄徳(まつもと げんとく、芝浦工業大学・岸田慎司研究室所属)
研究生 王 磊(わん れい)

 2007年5月に東戸塚にある大成建設技術研究所を見学させていただいた。本館の耐震補強と大規模改修とが竣工したということでお呼びいただいたと記憶する。建築学会のPC関係の委員会で一緒に活動していた是永健好さんにお世話になった。既存建物の耐震補強をともなうリニューアルやコンヴァージョンを研究テーマに掲げたこともあって、その好例として技研の建物を興味深く拝見した。

 大成建設の技研には宇都宮大学の頃には試験体の作製で通い、東京都立大学に赴任した初期には鉄筋コンクリート柱の試験体作製をお願いしたことがあり、とても懐かしいところである。

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:大成技研見学2007:IMG_0189.JPG
写真1 耐震補強用の鉄骨格子の前で説明してくださる是永健好さん(大成建設技研)

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:大成技研見学2007:IMG_0194.JPG
写真2 床スラブを撤去して大きな吹き抜けになったエントランスホール(大成建設技研)

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 この年の日本建築学会大会は福岡大学で開かれた。ご当地・高山峯夫先生(免震構造/大学院時代の同級生)の研究室の出身である田島祐之さんに案内してもらって、高山研究室を(勝手に)訪問した時の写真が下である。大学院生の中沼、田島、林とCOE研究員の森田およびわたくしが写っている。

 田島さんにとっては勝手知ったる地元なので、晩にはもつ鍋屋さんに連れて行ってもらった。芝浦工大の岸田慎司先生の研究室と合同である。岸田先生(左端)の隣に我が社のOBである白山貴志さんも写っている。

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:AIJ大会福岡2007:CIMG1146.JPG
    写真3 福岡大学・高山研究室にて

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:AIJ大会福岡2007:CIMG1147.JPG
写真4 福岡のもつ鍋屋の前にて(芝浦工大・岸田研と一緒)

 学会大会の会場では韓国・釜山工科大学校の李祥浩[い・さんほ]さんとバッタリ再会した。李祥浩さんが1995年初秋に東京都立大学を退職して以来なので、十年以上のお久し振りということになろうか。釜山から福岡までは高速船が就航しているそうで、それに乗って入国したということであった。とっても近いですよ〜って言っていたことを思い出す。

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:AIJ大会福岡2007:CIMG1148.JPG
写真5 福岡大学にて(李祥浩先生と北山)

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 2007年度、わたくしは建築都市コースのオープン・クラス「高校生のための建築都市講座」の担当者であった。告知はおもに建築都市コースのホーム・ページで行ったが、この当時わたくしがコースのHPをさわれるようになっており、オープン・クラスの申し込み状況を逐一掲載するようにした。そんな努力が実ったのか、当日は約70名の参加があってとても盛況だった。

 特別講義は「都市の中の数学」(玉川英則教授)および「建築構造のしくみ」(山崎真司教授)のふたつで、両者ともにとても分かり易くて楽しい授業だった。とくに玉川先生の授業では参加者の皆さんに作業をしてもらって答えを出させるなど、とてもよく工夫されていたのでその後の参考になった。

 「在学生が語る建築都市コース」のコーナーでは、我が社の卒論生の戸上結美子さんと溝下麻美さんとのお二人にお願いしたが、こちらもとても楽しくて高校生諸君の役に立ったことと思う。なおこのお二人には受け付けなどの事務補助もお願いした。とても助かりました。

 なおこのときの参加者名簿が手元にあるが、それを見るとその後に本学・建築都市コースに入学したひとが結構いたことに気がつく。高校生向けのオープン・クラスがそれなりに役に立ったということだろうから、主催したほうとしてはやっぱり嬉しい。

 説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:TMUオープンクラス2007:IMG_0201.JPG
写真6 オープン・クラスにて(戸上結美子さんと溝下麻美さん)

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 2008年2月に卒業設計および修士設計の講評会があった。プロジェクト研究室からは足立理恵さんが、また卒業設計には我が社の戸上結美子さんがそれぞれ出展した。我が社の卒論生で卒業設計をとるひとは少ないが、2007年度は戸上さんがトライした。

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:卒計/修計公表会2007:IMG_0268.JPG 説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:卒計/修計公表会2007:IMG_0274.JPG
写真7 修士設計および卒業設計の講評会(足立理恵さんと戸上結美子さん

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 2008年3月に我が社の追いコン・新歓および芝浦工大・岸田慎司先生の壮行会が南大沢で開かれた。それまで我が社のホームページは森田真司さんが管理等を担当してくれたのだが、それをわたくし自身に移管したのが2008年2月であった。そのため、この追いコンあたりから我が社のさまざまなイベントがHPに掲載されるようになった。それによるとこの日は全部で18名が出席している。2008年度の卒論生3名のほかに岸田研の学生諸君も加わったためであろう。

 岸田慎司先生はこの4月からアメリカのJack Moehle先生のところに滞在することになっており、その壮行会も同時に行った。

 ところで上述のように研究室HPを自分自身で管理するようになったきっかけは、確か建築都市コースの竹宮健司先生(当時、准教授)からAdobeのソフトウェアを使って簡単にさわれることを伺ったからだったように記憶する。そのソフトウェア(Dream Weaverの前身)の使い方を竹宮先生からレクチュアしてもらって、ほんとに簡単だねということが分かった。もっともHTMLのような言語についてはなにも知らないので、全くもってソフトウェア頼みに過ぎないけど…。

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:北山研追いコン2007:sR0010656-r.jpg
写真8 北山研究室追い出しコンパ・新歓・岸田先生壮行会(2008年3月)

 最後は卒業式・修了式の日(2008年3月25日)にわたくしの研究室で撮った写真である。みな晴れやかな顔をしていてとってもいいですな(ちょっとにやけ過ぎなヤツもいますけど、あははっ)。

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:2007年度卒業式:IMG_0287.JPG
    写真9 卒業式・修了式の日に北山研究室にて


1. 連層鉄骨ブレースで耐震補強した立体RC骨組の三方向載荷実験

 2005年度に採択された科学研究費補助金・基盤研究Cによる研究の最終年度である今年は、いよいよ立体の鉄筋コンクリート骨組を鉄骨ブレースで耐震補強して現実に最も近い状況で載荷実験することを目論んだ。ここで注目したのが、下階壁抜け柱の軸崩壊防止に鉄骨ブレースを併用するという従来のやり方に対する疑問であった。

 具体的には次のようなことである。既存RC建物における下階壁抜け柱の圧縮軸耐力不足の際には、軸崩壊防止のための補強を兼ねて連層鉄骨ブレースを当該壁抜け柱に隣接して設置することがよく行われる。この場合、鉄骨ブレースに直交する方向の水平力により下階壁抜け柱の軸力が大きく変動するが、下階壁抜け柱は鉄骨ブレースからの軸力変動も同時に受けるため、鉄骨ブレースによって下階壁抜け柱の軸崩壊をかえって加速させることも生じ得るのではないか。

 こんなことを考えたひとは多分それまでいなかっただろうと思う。この問題に対して我が社では、以前に森山健作くんや舛田尚之くんがCANNYによる立体骨組解析に取り組んでくれていた。でも実際にその挙動をこの目で見てみたいという、いつもの欲求が沸々と湧き上がって今回の実験に至ったのである。

 さてそこで試験体の設計である。連層鉄骨ブレースを設置する桁行方向はこれまでの試験体との連続性から2層3スパンにしたい。また張り間方向には第2層のみに耐震壁を設置して下階壁抜け骨組を実現することが必須なので、最低でも1スパンが必要である。これは相当に大規模な試験体である。

 ところが例によって予算は潤沢とは言いがたい。もちろん科研費をいただいてはいるのだが、こんなに大規模な試験体を作れるほどではなかった。では、どうするか。苦肉の策として思いついたのが“看板建築”方式である。下のアクソメ図を見てほしい。張り間方向には下階壁抜け骨組が連層鉄骨ブレースに直交して接続すればよく、そのほかの骨組は極言すれば不要である。ただそれでは張り間方向に加力するときにバランスが悪くて試験体が捩じれてしまう。そこで下階壁抜け骨組の隣に純フレームを設置して、これを鉄骨ブレースのもう一方の側柱に接続した。

 こうして前面には3スパンあるがその後ろには1スパンしかないという“看板”(あるいは張りぼて?)形式の前代未聞の試験体が設計されたのであった。このような大方針を決めたあと、試験体の細かい設計とか準備計算などはM1の林秀樹くんに任せることにした。林くんは卒論のときに中沼弘貴くんのもとで鉄骨ブレース実験を経験していたので適任だったが、なにより2007年度のM1は彼しかいなかったのだ。

 例によって試験体は1体こっきりの真剣勝負である。我が社でも最大級の複雑かつ大規模な実験ではあるものの研究室の人的資源には限りがあるので、チーフを林秀樹くんとして、卒論生の溝下麻美さんと松本玄徳くん(岸田研究室)との二人に担当してもらうことにした。

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:Desktop:鉄骨ブレース実験_林2007.jpg
説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:立体鉄骨ブレース実験2007-林:DSC_0579.JPG
       写真10 大型実験棟へ試験体を搬入する

 試験体の作製は入部工業にお願いして、2007年11月末に本学の大型構造物実験棟に搬入した。写真のように鋼製型枠を付けたままで搬入を行い、実験棟で入部工業に脱形してもらった。その理由は覚えていないが、トラックで運搬する際の養生がその方がやり易かったためと思う。

 加力は鉄骨ブレース方向の水平力のほかに、それに直交する方向(下階壁抜けフレームの方向)への水平力および柱軸力を与えるため、載荷装置は非常に複雑になる。ただ前年度の中沼実験の際に構築した載荷システムを援用できたため、そのノウハウが大いに役立った。そうは言っても物理的にそれらを構築し、実験用の測定治具を製作して変位計を設置するなどの作業は大変だったと思う。

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:立体鉄骨ブレース実験2007-林:DSC_0597.JPG
写真11 実験装置の全景(面外方向に取り付けた3台の水平ジャッキが分かる)

 こうして実験は年が明けた2008年1月9日から始まった。これ以前に実施した二シリーズの連層鉄骨ブレース実験では、いずれも思わぬ載荷ミスやジャッキの暴走によって試験体に相当程度の損傷を負わせてしまっていた。三度目の正直の今度こそそのようなアクシデントがないよう、出来る限りわたくしが実験に立ち会うように努力した。

 しかしそのような願いも空しくまたしても事故は出来したのである。二度あることは三度ある、とはまさにこのことであろう。その日も夕方まで大型実験棟にいたが、その日の加力が終了してあとは除荷するだけになったので、もう大丈夫だろうと思い実験棟をあとにした。

 ところがそれからしばらくして林秀樹くんから携帯にメールが届き、何だかわからないが試験体が壊れた、というではないか。これには真底おどろいた。だって除荷していたんでしょう? 林くんが言うには突然、試験体が壊れたらしい。でも、そんなことがあるのだろうかという疑問で頭のなかはいっぱいであった。

 さて、実験棟に行ってみると試験体は確かに壊れていた。その壊れ方や残留変形などから、どうやら水平面に取り付けたジャッキの幾つかが何らかの原因で動いて(これって“暴走”そのものだと思うが…)、試験体が平面的にねじられたことが分かった。まさに想定外の事象だな。

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:立体鉄骨ブレース実験2007-林:DSC_0708.JPG説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:立体鉄骨ブレース実験2007-林:DSC_0702.JPG


説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:立体鉄骨ブレース実験2007-林:DSC_0704.JPG

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:立体鉄骨ブレース実験2007-林撮影:DSC00608.JPG
     写真12 事故発生直後の様子

 それからしばらくは損傷の状況を確認して、実験継続の方策を練り、そして肝心の事故原因の究明につとめた。試験体がねじられたため、面外方向に水平力を繰り返し載荷することは断念せざるを得なかった。張間方向2階の耐震壁にも斜めひび割れが六、七本発生した。ただし下階壁抜け柱の損傷はそれほどでもなかったため(多分、ねじれ中心から近かったためだろうな)、面内方向の載荷は可能と判断した。不幸中の幸いである。

 しかし結局、事故の原因を特定することはできなかった。コンピュータ制御は便利だが、こういうことがあるとその使用を躊躇せざるを得なくなる。もちろん人間の側の何らかの不注意あるいは勘違いということもあるのかも知れないが、少なくとも実験担当者の林くんはその可能性を否定した。何百万円もかけて汗水流して作った試験体がジャッキの暴走によって一瞬のうちに壊れるなど、あってはならない事故である。実験室における加力システムの信頼性がいかに大切であるか、身を持って知ることになった。

 このトラブルの解決に四日ほど費やしたがその後は順調に実験が進み、2008年1月20日(この日は日曜日だったが…)の午後8時に実験は終了した。そのときに撮ったのが下の写真である。卒論の提出は多分一週間後くらいだっただろうが、とにかく一体しかない実験を(無事に、と言えないところがつらいが…)終えることができてホントによかったなあ、と思ったのであった。

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:立体鉄骨ブレース実験2007-林撮影:ブレース全体写真(実験中):IMG_0331.JPG
   写真13 実験終了記念(左から北山、溝下、林、松本、中沼)

説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:立体鉄骨ブレース実験2007-林:DSC_0856.JPG 説明: Macintosh HD:Users:KitayamaKazuhiro_2:写真:立体鉄骨ブレース実験2007-林:DSC_0843.JPG
            写真14 押し切り載荷時の損傷状況

















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