トップページ > 北山研ヒストリー> 北山研での研究:1993年

 この年、私は講師から助教授に昇格した。30代前半であったので建築系では早い方であろうが、深尾精一先生のように20代で助教授になったひともいるので威張れもしない。母方の祖父は、苦学して東京教育大学(注1)の教授になったらしいので生きていたら喜んでくれただろうが、残念ながら既に他界していた。これを書いている現在(2009年2月)も私はまだ准教授(助教授という名称からこれに変わっただけ)であるから、すでにロートルもいいところだろうが。

注1: 東京教育大学(国立です)は既になく、文部省の画策で実験大学としての筑波大学に改組された。

 余談だが、「講師」という名称は大学では正式な職名であり、教授会メンバーでもある。しかしながら一般の人たちにはどうも「非常勤講師」のことだと思われていることが多いようだ。現にわが研究室の池田君から「先生って、非常勤じゃなかったんですか」のような質問を喰らったことがあったことを思い出した。境有紀さん(青研の2年後輩で、現筑波大学)もHPで書いていたが、大学の職名って何とかならんのでしょうか。最近できた「助教」っていうのも英訳するとAssistant Professorで、これをさらに日本語に直すと「助教授」となる。なんだ、これ? なお、北山研究室二年目の陣容は以下の通り;

 M1 池田浩一郎

 卒論生 (空 席) ただし西川研究室から吉田格英くんをレンタル(?)

1. 定着板方式による面外せん断補強法の実験研究

 この実験は西川孝夫先生を研究代表者とする、鹿島建設原子力設計部との共同研究である。原子炉建屋におけるRCCV(原子炉を格納する心臓部)や基礎スラブの面外せん断補強のために、せん断補強筋を多量に配筋することが必要であるが、その配筋作業は困難を極めていた(そうである)。これを緩和するために、せん断補強筋の端部にある135度フックを止めて、その代わりにボルト付き定着版やテイパー付きのデコチンとした場合のせん断挙動を実験によって検討しよう、という研究である。

 このように対象はシェルやスラブのような面材であるが、面材の面外せん断実験は大変である。そこで、スラブの一部を切り出してきたと言う想定で、扁平な断面を持つRC梁を試験体とした。これに逆対称曲げせん断加力する実験を行った。

 実験は、大型実験棟ではなく、建築学科のもうひとつの実験棟である「機械・建築実験棟」において実施したが、キャンパス移転後まだ2年しか経過しておらず、深沢キャンパスから持ってきたという古びた閉鎖型の門型載荷フレームが一台あるだけであった。わたしには分からないが、多分これは東洋一先生(故人)や大久保全陸先生が実験していた頃の遺産ではなかったろうか。H鋼のフランジには年季ものの孔がたくさん開いていた。これに片押しのジャッキを取り付けて大野式の加力装置を作り上げた。

 このように実験自体は有り合わせの機材を組み合わせて行ったのだが、さすがに私独りでは実行できない。そこで、西川研究室の博士2年の大学院生だった姜柱氏にチーフを引き受けてもらった。また試験体の入れ替えや加力の際には、助手だった津村浩三さん(現弘前大学准教授)や見波進さん(現首都大学東京助教)に監督をお願いした。この年は、北山研には卒論生がひとりも入らなかったので、Man-power は西川研や芳村研から提供して貰った。結局、構造系研究室総出の実験となったのである(1993年3月に鉄骨構造の寺田先生が退官したので、構造系は西川、芳村、北山の三研究室になっていた)。


写真 加力装置の前で記念撮影 左から千葉(芳村研)、佐藤(芳村研)、姜柱(西川研)、見波、北山、鶴巻(鹿島)、高木(バイト)、黒田(芳村研)

 この実験によって、ボルト付き定着版などを有した単筋をせん断補強筋として使用しても大丈夫だろう、という結論は得たが、その後このような定着方式が実機に用いられたのかどうか、残念ながら私は知らない。それよりもむしろ多段配筋の場合の主筋の付着強度や、そのような場合のせん断伝達機構について、実験結果に基づいて詳細に検討できたことが収穫であった。実験後に試験体を切断して、3段筋の位置にきれいな全割裂のひび割れが生じているのを見たときには結構感動した。この研究成果を翌年、論文としてJCI年次講演会で発表したところ、姜柱氏が優秀講演賞を受賞したのもうれしい出来事であった。

 この研究が縁で、まだ建設途中であった東京電力の柏崎刈羽原子力発電所に見学に行った。2007年の中越沖地震によって大きな被害を受け、現在停止中のあの原発である。

2. ひび割れたコンクリートの圧縮強度低減に関する実験研究

 1992年度に引き続いて、野口博先生の科研費をいただいてこの研究を継続した。担当者も引き続き、本学の修士課程に進学した池田浩一郎君である。実際のコア・コンクリートは通常は横補強筋によってある程度拘束されるので、これによる圧縮強度の増大と、この一年間研究してきたひび割れによるコンクリート圧縮強度の低減とを合わせて考慮する必要がある。そこで直方体コンクリート試験体を拘束する鉄筋量を実験変数とした。

 また、ひび割れたコンクリートの圧縮強度低減の原因のひとつとして、ひび割れの屈曲が挙げられていた。そこでひび割れの屈曲が圧縮強度低減に与える影響を定量的に調べるため、ひび割れが屈曲せずにストレートに入るように、ひび割れ誘発目地の断面に金網を設置した試験体を作製した。このシリーズでは、試験体のサイズを1992年度よりも大きくし、通し配筋する鉄筋の本数も多くして12-D10とした。また比較用に鉄筋を配さないコンクリート塊のみの試験体も準備した。実験変数が多くなったため、試験体数も28体と膨らんだ。

 実験は年が明けてから実施した。試験体の上下に摩擦を除去するためのテフロン・シートを敷いたところ、鉄筋なしで圧縮力だけを載荷する試験体では圧縮載荷中に微妙なバランスが崩れて、試験体が滑り出して床面に落下するという事故が発生した。そこでテフロン・シートをはずして実験したところ、今度は鉛直ジャッキの容量ぎりぎりの190tonfくらいで試験体が突然圧縮破壊した。この実験自体は上手くいったのだが、この2体の実験だけで変位計やらパイ・ゲージやらがボロボロ壊れてしまった。

 これらの教訓から、テフロン・シートを敷いて、面外すべりを防ぐためのピン・ポイントの拘束治具を設置して実験を続けることになった。また試験体の上下面のレベルを出すために、サランラップに包んだ石コウを敷いて鋼板で押さえつけ、水準器でレベルを確認する、という面倒な作業をすることになった。このあたりの職人芸は池田君の本領発揮、といったところであった。

 この成果は池田君の修士論文の一部となるとともに、1995年のJCI年次大会に論文として発表することができた。その際、東大・土木コンクリート研の前川宏一教授から貴重なご助言をいただいた記憶がある(前川先生はRC構造物のFEM解析のプロで、COM-3という市販FEMソフトウエアの親元としても有名である)。

3. RC内柱梁接合部の非線形有限要素解析

 この研究も私のD論の延長上に展開されたものである。池田君との実験によって、ひび割れたコンクリート塊の圧縮強度低減係数をとりあえず定量化できたので、これをコンクリートの構成則に組み入れてFEM解析を行い、梁降伏後の柱梁接合部のせん断破壊を定量的に調べてみよう、というのが当初の目論見であった。

 担当は、この年に西川研の卒論生になった吉田格英くん(現三鷹市役所)である。北山研があまりにも人気がなくて卒論生が誰も来なかったために、西川先生が気の毒に思ったらしく、吉田君に私のところの研究に取り組むよう(因果を含めて)諭して下さったのである。ことあるごとに書いているが、西川先生のご配慮には本当に感謝しても感謝しすぎることはない。

 ちなみにこの当時の卒論の研究室配属の方法は、現在のように一研究室あたり何人、というような枠は定められておらず、卒論生ゼロの研究室があってもしょうがないでしょ、というやり方であった。高見沢邦郎先生(現名誉教授、都市計画)から「ハードなテーマばっかりじゃなくて、ソフトなものもやらないとね、ふっふっふっ」と諌められたこともあった。私はまだ若かったので、先端研究でガンガン行けば学生も入ってくる、ととんがっていたが、現実はそんなに甘くはなかったのである。

 さてFEM解析であるが、今までの経緯からプログラムとして、千葉大学・野口研究室で開発された非線形二次元FEMソフトウエアを使わせていただいた。このソフトのひな形は、野口研を修了した長沼一洋さん(現大林組技研)が作成されたものであり、その後も野口研で時間をかけて改良を重ねて使い続けられていた(このとき用いたのは、野口研の研究生だった内田和弘さん(フジタ)が改良したプログラムだったと思う)。

 そのため完成度は高いと思ったが、如何せん自家製ソフトのため、初期データ作成のための入力作業と、解析後にデータを使えるようにするあと処理が煩雑であり、残念ながら使い易いとは言えなかった。十字形部分架構の要素分割、要素番号、節点番号、ボンド・リンクの位置と番号、クラック・リンクの位置と番号、などを記入した図をA1サイズくらいの紙に手書きで作った。あと処理のプログラムももちろんFortranで書いて、都立大学の大型コンピュータで走らせた。

 このようにプログラムをランさせるまでにひと苦労、結果が出てきてもそれを取り出して意味ある形(図など)にするのにまた苦労、ということで吉田君は大変だったことだろう。こうして、梁降伏後に接合部せん断破壊した試験体をFEM解析したのだが、案に相違して、ひび割れたコンクリートの圧縮強度低減を考慮した解析結果は実験結果をうまく追跡できない、という結果になってしまった。もっともFEM解析ならではの内部応力状態を詳細に調べてみると、ひび割れたコンクリートの圧縮強度低減を考慮したほうが梁主筋に沿った接合部内付着力を精度よく追跡できることも示し得た。

 このように必ずしも思ったような解析成果は得られなかったものの、研究室内でFEM解析ソフトウエアを使いこなす素地は出来上がり、今後の研究に大いに活かされることになる。



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