メッセージ

学部生および大学院生向け
 朝山研究室のホームページを見て、一つでも「面白そう」と思ってくれたキーワードがあれば、是非、一緒に研究しましょう!「研究分野に対する興味」を大切にして下さい。そうすれば、「成功体験」が得られ、「予期せぬ興味深い結果」にも出会え、喜びに感じられるようになります。研究室で、その喜びを一緒に分かち合いましょう!
 そして、大学院に進学し、学問の世界に、皆さんと共に、新しい知を築きましょう!
            【心掛け】「努力に勝る天才はなし」「継続は力なり」
バイオマテリアル研究者向け:提言「リーディングバイオマテリアル」バイオマテリアル, Vol.36, No.1, 10 (2018)
 バイオマテリアルの研究は、生体分子の機能に学ぶことが多い。「生命体は、様々な分子同士の複雑な機能発現の下に成り立っているが、生命活動の本質を見抜く!」ことが大切である。例えば、ポリエチレングリコールは、多くのバイオマテリアル研究者に用いられているが、非常にシンプルな分子構造をしている。生体の異物認識機構からの回避のための本質を見抜き、生体分子の模倣の延長線上ではない分子設計だと感じる。この様な分子設計指針は、医学をはじめ、薬学や生物学をリードするバイオマテリアルの創製のためのヒントになるだろう。その際,医学研究者との交流は大切だが、価値観の違いを共有しなくてはならない。臨床応用されないバイオマテリアルは意味が無いという医学研究者の考え方は仰る通りである。
 しかし、分子設計を鑑みずに単に効けば良いという発想は、学問的に好ましくないと考えている。直ちに臨床応用されなくても、分子設計を大切にしていれば、将来的に臨床現場へ多大な恩恵を導くことになる新しいコンセプトの創出が期待できる。従って、バイオマテリアル研究者は、医学研究者に単に効く材料合成を依頼されるのではなく、臨床応用を意識した医学研究計画をリードするための「高度な学際性」が必要だと考えている。
 言い換えると、新しいコンセプトに基づくバイオマテリアルを、数多くの臨床医師に使用して頂ければ、一つのバイオマテリアルで救える患者数は、一人の医師が救える患者数を遥かに上回り、多くの人類のQOLの向上に繋がると期待できる。そのために、バイオマテリアル研究者の個性の発揮が望まれる。つまり、研究者が異なれば、創られるバイオマテリアルとそのコンセプトは無限である。もし、創製や創出ではなく、解明が主目的になると、研究者が異なっていても発見される原理は同じで、辿り着く時期の早さを競うことになるのだろう。
 しかし、上述の理想論に加えて、臨床応用可能なバイオマテリアルの創製にも、時期の早さが大切だとリアルに認識する機会があった。2017年、高校生を対象とした1日体験化学教室において、バイオマテリアル研究の話をした時のことである。「私は1型糖尿病を患っていて他の生徒より寿命が短いです。私も大学に入ってバイオマテリアルの研究をしたいですが、先生、私の生きている間に何とか救ってもらえるバイオマテリアルを開発して下さい。」と(一字一句は異なると思うが)お願いをされた。この時、バイオマテリアル研究に対するシビア過ぎる責任感を感じずにはいられなかった。
 思えば、私が高校生の時も化学が好きで、幼少期の小児喘息で苦しんだことや風邪薬の副作用を経験したことなどにより、当時の進学雑誌に載っていて、後に恩師となる赤池敏宏先生(現 東京工業大学名誉教授)の研究紹介を拝読した時に、化学と身近な身体現象が結びついたバイオマテリアル研究に憧れを持ったのは必然だったと思う。その後、大学4年生となり、念願の生体材料設計講座に配属後、恩師である赤池敏宏先生に本格的なバイオマテリアル研究へ御指導頂き、同じく恩師である丸山厚先生(現 東京工業大学教授)に手取り足取り分子設計の魅力を御指導頂いた頃の、純粋な初心を再認識した。
 二十歳頃の未熟な時期から、化学系のみならず、医学・薬学・生物学系の実験・学会・論文に日常的に触れさせて頂いたおかげで、バイオマテリアル研究の学際性を体得したことにより、プロになってから現在に至るまで、医学・薬学・生物学の研究者との違和感の無い交流に臨めている。研究者間交流において、それぞれの立場を意識した議論への姿勢が、自然と身についていると感じている。この時、議論をリードするためには、益々の幅広い視野、学際性を磨き、更なる日々の努力が必要であろう。
 今後、バイオマテリアル研究の発展のため、一人でも多くの学生にバイオマテリアル研究への興味を与え、研究者として育てると共に、バイオマテリアル研究の継続性を力に、一つでも多くの「リーディングバイオマテリアル」を創製していきたい。
         【朝山章一郎(依頼執筆), バイオマテリアル, Vol.36, No.1, 10 (2018)より抜粋・一部改変】