研究の背景
20世紀後半には、わが国を始め世界中の都市で、過去に例を見ない莫大な建物が建設された。さらに、経済的躍進著しいアジア地域では、さらなる建設が進行中である。それらのほとんどが記念碑的な建物ではない「都市にある普通の建物(一般建物)」であり、その要素技術に、たとえばモダニズムの規格化された中層集合住宅(フランス・マルヌラヴァレニュータウンと日本・多摩ニュータウン)など、世界的な共通性が見出されることも時代の特徴である。

地球環境問題が深刻化し、全世界的に持続可能な社会の実現を目指している現在、一般建物を安易にスクラップ・アンド・ビルドすることなく、活性を維持しつつ機能を向上させる都市建築ストック賦活型社会の実現の必要性は言うまでもない。しかし、一般建物は、個別目的のための消費、つまり必要性を前提として建築されてきた。新築時には、その後の継続的使用(持続)、あるいは用途変更や除却(変容)は考慮されておらず、時間の経過の中で建物を廻る地域固有の風土や社会とどのようになじませていくのかについても考慮されていなかった。いわば風土や社会に根ざした持続可能な都市を形成できる建築を実現できる技術を、物的側面・活用側面の両面で有していなかったと言える。当初の目的を終えた一般建物の多くは、単なる消費材として除却され、建築が「ストック=財産」として蓄積・活用され継承される調和ある都市空間は形成されてこなかった。従来の建築学を、新築時の設計技術に重点をおいたものではなく、世界的共通性が高い技術を用いつつも風土や社会に呼応できる、一般建物の誕生(新築)から除却(解体)に至るまでの一連の生涯を総合的に扱う学、つまり地域資源としての建築を如何にして有効活用するか、という問への学として深化、再編成する必要がある。

このような状況に鑑みて、建築学においてもライフサイクルマネジメントや長期的ストック活用の研究が意識されるようになった。しかし一般建物は他の工業製品と、その複雑さにおいて格段に異なる。建物は耐用年数が長く、移動が困難で、一品生産で、いつでも改修可能である。さらに、都市に存在する建物は用途変更が頻繁で、関わる主体も多く、その立地する場所の風土の影響を受けるため、評価が多元的であり、その価値ひいては寿命が周囲の建物に左右される。この特徴が過度のスクラップ・アンド・ビルドを招いており、今まさに、この状況を改善し得る技術体系が、とりわけて建設活動が極めて活発なアジア地域において、求められている。